2008年8月2日土曜日

そら

 白雪しおんの『そら』、これが始まった時には、ストーリー色強い漫画になるのかと思ったけれど、実際読み進めてみれば、実に白雪しおんらしさの感じられる四コマ漫画でありました。けど、白雪しおんらしさってなんだろう。キャラクター性が重視されたコメディで、けれどキャラクターの特異性に寄るところはむしろ少ないような漫画といったらいいのでしょうか。実際、身近にいてもおかしくなさそうな、そんなキャラクターがいるかと思えば、思いっきり漫画的デフォルメが加えられているようなキャラクターもいて、それも結構どころかむやみやたらといて、けれどそうしたキャラクターが不思議と調和して、楽しそうにやっている。その根本には、キャラクターの心情をしっかりと捉えて表現する、そういう筆致があるのだと思います。変わり者ばっかりの漫画だけど、そうした変わり者の思うところに、普通一般のものとかわらぬものが垣間見える。その心の機微、納得もすれば共感もあって、ああ、この感覚があるからこの人の漫画はすごく身近な感じがするのかも知れません。そして私は、この身近という感じを持って、白雪しおんのらしさと思うのかも知れません。

白雪しおんのこれまで描いてきた漫画、『ROM-レス。』にも『にこプリトランス』にも、それから『レンタルきゅーと』にも、どこか特異な設定がありましたが、『レンタルきゅーと』を除けばその特異性は、特定のキャラクターの持つ要素に過ぎませんでした。しかし『そら』はちょっと違っていて、例えばヒロイン、ソラ=アサツキは空が飛べるという特技こそあるものの、平凡な女の子という設定です。空が飛べるのに平凡? それは、この世界では空を飛ぶという技術が確立されているから。数こそ少ないものの空を飛べるものは普通にあって、それぞれそうした技能を活用して仕事に従事しているという、そんな世界が舞台であるのですね。そして、ソラ=アサツキは自分の持つ技能でもって、公安局郵便課に就職、郵便事業に従事する。その彼女のがんばり、仲間、上司との交流が描かれて楽しい漫画であります。

そう、交流が楽しいのです。ソラ=アサツキは空組の新人で、同様に新人のエルデ=フェンネル(陸組)、イルマ=マーレイン(海組)と仲よくなって、そのだんだんに知りあっていく様子が楽しければ、仲よくなってからの交流も楽しくて、いいトリオだなあ、本当にそう思います。あ、ここでもうひとつ白雪しおんのらしさというか特徴というか、大所帯になる傾向がある作家ですよね。『にこプリトランス』なんかももはやかなりの人数でありますが、『そら』も同様で、各課の課長が出れば、課長補佐も出て、しかも割合に登場の機会も多いというのですから、もうわいわいと大変です。けれど読んでいて、誰だっけと思うことがありません。これはつまりキャラクターが立っているということなのだろうなと思うのですが、各課課長、その補佐、新人三人に、同僚先輩なんかもあって、巻末の人物紹介は12人。出すに出したな。けど、きっともっと増えるんだろうな、いずれ後輩も出るだろうし。けどそれでもきっと楽しく読んでいけるという信頼があるのです。それこそ、どこまでこの世界が広がっていくものか、楽しみでいたりするのです。

しかし、私はこの人の漫画はかなり好きであるのですが、それを言葉にして、どこがどうなっているからいいという風に説明するのが大変で、なんでなんだろうと思うのですが、それは私がこの人の漫画の、特に言語化しにくいところに魅力を感じているからなのだと思います。ストーリーでなく、展開でなく、登場人物たちの個性だけでもなく、いわばその世界の持つ雰囲気に引かれるのであり、そしてその雰囲気を作っているのは登場人物の言葉で、行動で、そして心情であるのでしょうね。彼らの関わりあうところに生じる場の雰囲気、そうしたところにやすらいだり、嬉しくなったりしている。そしてそうしたものというのは、えてして言葉にはしにくいものであるのだと思っています。

だから、私はこの人の漫画について語る時には、決まっていつも舌足らず、言葉足らずであるのです。そして明日には、順調にいけば、『にこプリトランス』の第3巻で書くことになろうと思われるものですから、ああああ、大変だ。けど、それでも好きなものはしようがない。好きだから、好きと書く、うん、それでいこうと思います。

  • 白雪しおん『そら』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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