2008年3月20日木曜日

眼鏡なカノジョ

 先日、『ふぃぎゅあ — こととねシークレット』について書いていた時に、なんでか知らんけど急にツンデレ風言い回し使いたくなってしまったものだから、手近な雑誌に典拠を求めてみたのですよ。いったいどういったものがツンデレなのか、調べて書こうと思ったんですね。そうしたら出てきたのがししし仕方がないわねぇ! 寅屋が食べたいなら付き合ってあげるわよ!! 残念、シチュエーションにそぐいません。ししし仕方がないからWebに典拠を求めてみたところ、『眼鏡なカノジョ』という漫画はよいぞというお薦め得られましてね、そうか、じゃあちょっくら買ってみようか、って思った。え? ツンデレはどうしたかって? すみません、その時にはもうすっかり忘れてしまっておりました。

昔は眼鏡といえばいけてない、あかぬけないを象徴するかのようなアイテムであったのですけれど、時代の移り変わりがそのイメージを刷新させて、今や男も女も使う、おしゃれアイテムとなってしまいました。おかげで、街で、職場で、テレビで、漫画で、眼鏡着用した人に出会う機会も増えまして、私にしても実に嬉しい話なんですが、けど実はちょっと悔しいというか残念な気持ちもありまして。いや、私の裏道歩きの所以なんです。皆が、眼鏡なんて、と否定的にいっている時に、なにいってんだ、眼鏡いいじゃないか、眼鏡かわいいじゃないか、そういってきた時間が長かったですからね。幼稚園のころからだから、七十年代か! まだ世の中には萌えどころか眼鏡っ娘なんて言葉もなかったんじゃなかったかなあ。

『眼鏡なカノジョ』は眼鏡ヒロインを巡る恋愛模様を描いた短編集です。1999年くらいの私なら、きっと一も二もなく飛びついていたんでしょうね。ですが、最近では見送ることも覚えたものですから、もしさっきいってたおすすめに出会わなかったら、買わなかったかも知れません。だとしたら、きっとちょっと損をしていた、そう思えるくらいに力の入った、良作であったのですね。

なにがよかったか。ドラマだと思います。ヒロインを巡る恋愛模様、ただヒロインが眼鏡をかけているというだけではなく、小道具として眼鏡がよく活かされているんです。恋愛という劇を盛り上げ、引き立てるのに貢献する眼鏡たち。全八編という、決して少なくもない話数に、それぞれに違った個性のヒロインとシチュエーションを持ってきて、バラエティー豊かに眼鏡を巡る恋愛劇を展開するのですが、その物語の描かれ方がよかった。実に丁寧に練られていて、そのため感情の流れもすごく自然と感じられて素敵。眼鏡縛りというギミックも鼻につくことなく、むしろその良質さに引き込まれてしまったんですね。

話の傾向は、スタンダードといえばスタンダード。しっとりと繊細なタッチで、登場人物の心のうちをそっと描きだそうかとするのです。その感触は、派手さはないけれど、しっかりとした手応えを残すに充分なものだったから、読み終えて、充実の度合いがすごいですね。一気に読み終えられませんでした。二編ほど読んで、なんかほうっとため息つくような感じ。二日にわけて読んで、ページ閉じて、よかったなあって、物思う感じ。スローで、けれど鮮烈な印象もあって、若々しい息吹とでもいいたい、そんな漫画であったんですね。

今回は眼鏡縛りであったけれども、きっと眼鏡関係なしにこれだけ話を膨らませることもできたんだろうなと思いながら、けれど眼鏡でなければ成立しないような話もあって、眼鏡ものにして眼鏡ものにあらず、しかしあくまで眼鏡もの、ギミックにとらわれない広がりと深みを、ギミックに見事に共存させたまさしく力作でありました。実によい恋愛漫画、これは確かに買いであったと、一押しくださった方には感謝の気持ちでいっぱいです。

  • TOBI『眼鏡なカノジョ』(Flex Comix) 東京:ソフトバンククリエイティブ,2008年。

引用

  • 佐藤両々「そこぬけRPG」,『まんがタイム』第28巻第4号(2008年4月号),41頁。

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