2006年1月24日火曜日

ぼくのマリー

    なんかすごく唐突なニュースと思えたのですが、『最終兵器彼女』が映画化されたんですね。CMで見てええーっと思って、その後書店で平積みになった漫画も見て、うへえ、本気かよと思って、大きい書店にいったら映画予告がじゃんじゃん流されていて、勘弁してと思った。断っておきますが、私は高橋しんの描く絵は好きで、『最終兵器彼女』に関しても、実写より漫画のちせのほうが数百倍可愛いなあと思ったりするくらいなのですが、でもどうにも『最終兵器彼女』は受け入れがたくて、なんというんですか、あの、突然私兵器にされちゃったのという設定をどうしても飲むことができないんですよ。二巻くらいまでは読んだんですが、どうにも先に進むことができず、だってさ、いくらなんでも無理矢理過ぎます。機械の身体がどうじゃこうじゃとかいう前に、この重大な人権蹂躙に対してなんらの声を上げるべきでしょうよ。ある日二人に圧倒的な現実が降りかかる、とか悠長なこといってる場合じゃないですよ。私だったら人類の敵に回るな。自分の身体が動く限り、復讐の限りを尽くすな。

というわけで、今回は竹内桜の『ぼくのマリー』です。

『ぼくのマリー』は、私にとってのヤングジャンプ黄金期に連載されていた漫画で、筋といえば、もてない男雁狩ひろしが、憧れの真理さんを思うばかりに、持てるロボット工学の技術を存分に奮い、真理さんそっくりのアンドロイドを作り上げた! それがマリー。というような話なんです。もうここまでいえば後は想像の範疇といったようなもので、真理さんとマリーが雁狩ひろしを巡って火花を散らす恋愛コメディ……、まあ厳密にはちょっと違うけど、大筋ではそれであっていると思います。

おたく少年の都合のよい夢をかたちにしたような漫画といえばそれまでだと思います。けれど視点はおたく少年を軸にしているというよりもむしろマリー寄りで、私はだからか結構この漫画が好きだったんですね。単行本全部揃えて、数年経ったら読むに堪えなくなったから、どっかに封印しているからヤケもほとんどない。非常によい保存が保たれているんじゃないかと思います。

読むに堪えなくなったのは、なんでなんでしょう。あんまりに筋が都合よすぎたのか。最初は高嶺の花だった真理さんが、結局雁狩にひかれていったからなのか。あるいは、真理さんの代用品であることに苦悩するマリーが、その苦悩の原因を消し去られ、オリジナルである真理さんと対等の位置に着けるというご都合主義のためか。いや、なんのかんのいって結局、あまりに憐れすぎる雁狩のためだけに用意された狭い世界の息苦しさのためか。正直なところ、私がこの漫画を読めなくなった理由はよくわからないのです。

つい先日、『ストップ!! ひばりくん!』に関して話していて、もしあのまま頓挫することなく続いていたら、どういうラストを迎えたんでしょうね、なんてこといってたんです。ひばりは男だから耕作と結ばれるというラストは、特にあの時代だからあり得ないだろうし、けれど耕作とひばりが結ばれないでは終われない、少なくとも読者は納得しない。このせめぎあい、まさにテーゼとアンチテーゼが劇的に戦う局面に立ち向かい切れなかったのが中絶の原因なんかなあ。けど、最後に機械仕掛けの神の登場を願って、実はひばりくんは女の子だったんです、なんてのはなおさら駄目だし、じゃあ本当に神様を引っ張り出して、耕作、ほらぼく完全に女の子だよ、なんてのはもうきわめつけに駄目でしょう。

で、話題は機械仕掛けの神にシフトして、劇が劇足る要因を最後の最後になかったことにしてしまうことで、それまでの劇的緊張を消滅させ、喜劇のおかしみ、それまで繰り広げられていたコメディタッチの軽さのみを残すという劇作上の技法なんですよなんて話をして、その時に例として出したのが『ぼくのマリー』でした。

『ぼくのマリー』は、本当に理想的に機械仕掛けの神を使って物語を完結させたのでした。もうお手本のようだといってもいいくらいの綺麗さで物語を終わらせて、ラストこそは少し未練が残る潔しとしないものではありましたが、でも私はあれは非常によかったと思います。真理さん派ではなく、マリー派であったこともあって、なおさらよかった。でもまあ、マリーはいいけどユリはどうなんだなんてことを思ったりもして、不公平じゃないか……、いやそのへんはまあいいんですが。

長く遠ざかっていて、これだけはっきりと思い出せるんですから、きっと私は『ぼくのマリー』を本当に好きだったんでしょう。それで、多分今も好きです。久しぶりに発掘して読んでみたくなりましたが、あれって今どこにしまってあるのかなあ。

  • 竹内桜『ぼくのマリー』第1巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1994年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第2巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1994年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第3巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1995年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第4巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1995年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第5巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1995年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第6巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1995年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第7巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1996年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第8巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1996年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第9巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1996年。
  • 竹内桜『ぼくのマリー』第10巻 (ヤングジャンプ・コミックス・スペシャル) 東京:集英社,1997年。

0 件のコメント: