2014年10月6日月曜日

押しかけ時姫

 来島海斗が学校から帰ったら、家には見知らぬ女の子が待っていた。当人曰く、戦国時代のお姫様。来島家を家臣として抱える野々江の姫、その名も時姫であります。ぶらっと屋敷の門をくぐったら、どうしたことか時を超えて現代日本へとやってきてしまった。けれど、こんなこと、そうそう信じられるものじゃない、と思いきや、父も母も普通に受け入れていて、この時間を超えた時姫の家出騒動、ちゃんと文書として代々伝えられてきて、ついに自分の代で姫がきたかと。貧乏クジ引いたと、ああ、それほど物分りいいわけでもないんですね。

しかし、時姫、魅力的でありますよ。くよくよするところなく、しっかりしてるその気概は、やっぱり姫としてのそれなのでしょうか。親から離れて暮らすことも、人質として嫁いだ従姉妹にくらべれば遙かにマシと、その自らの境遇、自身のありように対するシビアな視点とかね、ああ、13歳の娘であるけれど、単純に子供としてはおられなかった、そんな時代の育ちを感じさせます。

弓の名手、そして健脚。気位の高さはまさしく姫様。けれどそんな時姫が海斗に懐いていて、素直にそうとはいわぬけど、大事な家臣、いやそれ以上なのかい? 外出の際には手を引かせ、折々に南蛮の菓子、アイスをねだる。海斗のそばに他の女の影を見れば、どうにもこうにも気に食わぬ。恋とかじゃないみたいなんですけどね。ちょっとこういうところは子供っぽいのかも知れない。素直な独占欲みたいなものがあるって感じられて、いやはや実に愛らしい。いや、ほんと、現代日本をエンジョイしてますよね。その溌剌としたところ、すごく魅力的な姫様であるんです。

いまいちわかってない、現代の風物に対する時姫の反応。なんでもかんでも南蛮で処理しちゃったりね、あと頑なに変えない自分のポリシー。足など人前にさらせるものか、はしたない。けれど下着は決してつけようとしない。カルチャーギャップでいいのかな? うん、いいんだと思う。茶道への反応とか笑っちゃいましたよ。ああ、確かにそうか、そうなのかも知れん。けど、戦国の世と今の日本。あまりにも風物からテクノロジーから違いすぎてるでしょう? だから、あんまりこちらの社会に慣れさせないようにしてる節もあって、そういうのを見てると、ああ、来島の家の人たちは、いずれくる姫との別れ、姫の帰っていく日のことを心にとどめているのだなと切なくなる。そしてまた、時姫もこの来島の家のものたちと別れ、野々江の家に帰らねばならないこと、自分の姫としての責を理解し、まっとうしようとしているところ。ああ、やっぱりこの子は、ただ子供らしく過ごしていればいい、そんな時代の子ではないのだと、しっかりと姫である自分を受け止めているのだと、その覚悟に触れて胸苦しくなる思いがするのですね。

それだけに、現代日本に暮らす時姫の無邪気にも見える振る舞い、それが貴重と思われて、ええ、姫は、単純に子供ではいられなかった時代から、まだ子供として過ごしていい時代へときて、その責務、重荷をしばしおろしているのですね。ええ、ええ、どんどん海斗に甘えるがいい。海斗にわがままいうがいい。海斗からしたら、面倒くさいしかなわない、そんな思いもするかも知れませんけどね、でも、彼が時姫のこと、よくよく大切に扱ってくれると嬉しいと思ってしまうのですよ。

  • 東屋めめ『押しかけ時姫』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2014年。
  • 以下続刊

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