2010年3月12日金曜日

少女素数

 『少女素数』、『まんがタイムきららフォワード』にて連載されている漫画、本日単行本が刊行されました。表紙にはあんずとすみれ、ふたりが手を取り合って、うつむきかげんに立っている。静かで、しめやかな雰囲気がしっとりとして、心にそっと触れてくるような、そんな印象が素敵です。ぱっと鮮やかに花開く、そうした魅力は本編にとっておいたのでしょうか。表紙ではしとやかに、そして本編はじまればにぎやかに。多面体の結晶のように、光の加減でいかようにも違って輝く、少女期というきらめく季節をスケッチする。『少女素数』がはじまります。

作者のいうところによると、これは女の子の可愛いを追求しようという、そうした漫画なのだそうです。ヒロインは、あんずとすみれ、ふたごの姉妹。金髪のあんず、碧眼のすみれ、それぞれに父から受け継いだ特徴を備えて、綺麗。ふたりでいれば騒がしいくらいに元気。けれど、ひとりになればしおらしく内気さ見せるすみれなど、なかなかに一筋縄ではいかない娘らです。

『少女素数』には、そんなふたりを見つめる視点があって、それがこの漫画の質感を決定づける要素となっているのではないか、そう思っています。あんずとすみれの兄。彼の、妹たちを見守る目はやさしくて、そして可愛さ、美しさに対する敬意のようなものを感じさせるのですね。造形作家をしている、そのせいで、あんず、すみれの友人の男の子、ぱっくんからは尊敬の眼差しを向けられたりする、そんな人。ちょっと朴訥としていて、安心できる、そんな包容力感じさせる人なんですが、そのせいで年より老けてみられる。ええ、けれどその兄であり父でもあるかのような態度が、この漫画に浮つきよりも落ち着きを与えて、またその落ち着きが、ややもすれば瞬く間に過ぎさってしまいかねない、そんな少女であれる時代の輝きを一層につのらせるのです。

『少女素数』は、女の子の可愛いが追求される漫画。望むと望まざるとにかかわらず、変化しないではおられない時期。儚さが美しさをより際立たせるのかも知れない。そうした時期特有の美というものを掬いとろうとするかのように慈しむ漫画ではあるのですが、けれどこれがいつ物語として流れ出し、動きはじめるのだろう、そんな予感もしてしまうのですね。作者からすれば、そうした意図も予定もないかも知れないけれど、私はこの人は、ただただその時々の美をスナップショット撮るみたいに保存するだけのつもりでいながら、ついには物語らないではいられない、そうした躍動する思いを胸の奥に抱えてると、そんな風に感じているから、だから今はただ日常的風景のちょっとした描写であるようなものが、気付けば思いもしなかった伏線として振舞うようになったりするんじゃないかって、そんなこと思いながら読んでるんですね。

いつか動くのかな、わくわくですよ。ええ、時よ、今しばしそこに留まっていて、と望みながら、いつか動かないではおられない、そんな予感にふるえる心を自身感じとっています。ええ、すごく期待してしまう、しないではおられない。『少女素数』とはそんな漫画であるのです。

  • 長月みそか『少女素数』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2010年。
  • 以下続刊

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