2010年3月8日月曜日

ただいま勉強中

 ただいま勉強中』の第3巻が発売されて、これでもって完結とあいなりました。個性的な女子高生たちのお話。なんだか要領の悪い由良と、元気というかちょっと乱暴? な飛鳥、このふたりがメイン中のメインで、そしてバレー部一年、元気なんだけれどちょっとのんびりしてる葉菜子、オカルト大好きの千里。第3巻では、恋する美術部員、山田初音も加わって、他には担任やら理事やらと、にぎやかでちょっと癖のある女性たちが、本当に魅力的な漫画であったのですね。もともとからして私は辻灯子の漫画が好きであるわけですが、それにしてもこの漫画、好きでした。

第3巻で気になった登場人物、山田初音、彼女のエピソードは妙にセンチメンタルでありまして、学校の先生に恋をしてる。けれど、それをはっきりとは口にしない。先生に会いたい一心で、イーゼル持ち出して土手で絵を描いたりしているっていう健気さ、いじらしさはもうたまらんものがありましてね、辻灯子という人はあまり恋愛の要素を前面に出したりしないという印象があったのですが、そうした考えなど一度に払拭されてしまうほどに素敵なエピソード。ああ、あんな娘に恋されるだなんて、どんなにか仕合わせなことであろうかと思ったのでした。

けれど、そうした情を描いて、ただ単なるラブコメの展開にならないのが辻灯子らしいともいえまして、素直じゃない山田初音。恋愛はなかなか簡単には成就しなさそうで、そのやきもき、めちゃくちゃ可愛くて、そして面白い。実に乙女であるんですけど、乙女一色ではあれないというところ。目の前の状況、その時々の楽しみや自分の興味、そうしたもろもろに対して素直である、そんなところがシリアスに水をさして、また逆に乙女の表情を際立たせたりもして、ほんと、きらきらと多彩に色を変えて美しい、万華鏡のような娘たちなのであるのでした。

そんな彼女らの興味は、どことなくはみだしているっていうか、一般的な興味や関心、ありようとはちょっとずれてるようでしてね、そのずれてるってところが本当に素敵であったのでした。優しい世界であると思います。はぐれもの、変わりものが、そのありのままで過ごしている空間。私が辻灯子の漫画が好きで好きでたまらないという時は、このはずれものの楽園といった雰囲気にやられちまってる、そんな状態であるのかも知れません。『ただいま勉強中』もそう。他の漫画もそうだったなあって思って、ええ、はずれものである私の憧れてしまう、そんな世界が辻灯子の漫画にはあるんだなって思って、だからもう好きだっていうんですね。

『ただいま勉強中』は、生徒たちが一年生から進級することなく終わってしまいました。もし続きがあるなら、読みたい。彼女らのこれからがあるなら知りたい。そんな風に思えるのは、やっぱり彼女らのことが好きだったからなんでしょうね。魅力的で、ちょっとあやうくて、心配だったりもする、そんな彼女たち。でも、ほんと、いい子たちでした。

  • 辻灯子『ただいま勉強中』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 辻灯子『ただいま勉強中』第2巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2009年。
  • 辻灯子『ただいま勉強中』第3巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2010年。

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