2010年7月18日日曜日

こはるの日々

 大城ようこうという人を知ったのは、かつて日経BPが運営していたデジタルARENAというサイトにて行われた企画、「あなたにピッタリの1台をズバリ診断! デジカメチャートでチェック!」がきっかけでした。すごく魅力的な絵だと思って、覚えておこうと思った。そして 『こはるの日々』という漫画が『good! アフタヌーン』に掲載されている、そんな話を聞いて、これは是非読みたい、そう思って単行本になるのを待ってたのでした。そして第1巻が刊行、もちろん買いました。

購入したのは4月8日のこと。なにせ読みたいと思っていた漫画なんだから、ほどなく読んで、しかし感想は今まで先延ばしにされた。なぜか? 単純な話ですよ。ダメージが大きかったんです。ダメージ? ええ、昔、学生の時分、身近に似たような行動する人があったんですね。

さて、ヒロイン睦月こはる。こぢんまりとした可愛い女の子。その子が、通学の途中、急ブレーキの電車内、あぶなく倒れてしまうところを助けられたことからはじまるラブストーリー。といったらよくあるパターンですね。でも、ここはあえてよくあるパターンとして描いていると思われて、ああ、典型的恋愛コメディだな、ちょっと助けただけで好かれて向こうから押してきてくれる、そんな都合のいい話あるわけないよな、そう思わせといて、わくわく読ませといて、実はちょっと違うんだよというのですから怖ろしい。

ああ、怖ろしいよ。こはる。見た目は普通なのに、行動こそは少しエキセントリックだけど、ギャルゲーヒロイン的といえばそんな感じに思えなくもない。だのに、それがこんなにも怖い。積極的ヒロイン。健気で、懐っこくて、もう尻尾力一杯振りながら飛び付いてくる子犬みたいで、それが可愛い! とならないのは、どこかコミュニケーションが破綻してるからでしょう。こはるは、自分の中で膨らみ続ける好きという気持ちを、主人公鳥居晃の気持ちにすりあわせることなく、ただただ自分優先で押し込んでくる。こちらの気持ちとか考えない。思いのやりとり、気持ち、感情の擦り合わせがなされることのないコミュニケーションというものは、こんなにも恐怖なのだ。それが実にうまいこと表現されていて、だもんだから昔のことを思い出しちゃったんですね。

詳しくは思い出したくない。大学通ってた頃、ひとつ下にそんな人がいたんです。ちょっとでも父性的なもの感じさせたら、ぐーっと寄ってくる女の子がいたんです。父性的 — 、先輩というだけでターゲットになった。ええ、一時なりかけて、必死でさばいてたら、その様子見ていた職員さんから、君は冷たいなあ、とかいわれて、ええーっ! 違う、違うよ! 勘弁してくださいよ! そう、端から見てる分にはわからないんですよ。ただ懐いてる、そんな風に見えるのですかね。それこそ、この漫画でいう夏希や真行の見ているもの、ずばりあんな感じですよ。鳥居が感じている違和感や異質感、それがちっとも共有されない、理解してもらえない、そんな気持ち、ああ、よくわかるよ。やばいよね、いや、やばいんだって、必死で伝えようとしても全然わかってもらえないから、まるでこちらがおかしいみたいに見られてしまう。ああ、怖ろしいよ、怖ろしいよ。こはるさん、本当に怖ろしいよ。

で、私の話ですけど、誤解はとけました。いえいえ、簡単なこと。しばらくしてからのこと、その職員さんがターゲットになって、なんか軽く待ち伏せ受けたらしいですね。ぎょっとしたらしいって聞きますね。ええ、その瞬間、あの時の私の行動の意味を理解してくださったことと確信しております。

といったわけで、『こはるの日々』。読んでいてぞわぞわとします。まさに怪談ですね。心理的な怖さがじわじわと押し寄せてきますね。けれど本当に怖いのは、主人公の行動ですね。ええ、本当に怖いですよ。どう怖いかは読んで確認してくださいね。はい、もう時間きました。それでは次回をご期待ください。

さよなら、さよなら、さよなら。

  • 大城ようこう『こはるの日々』第1巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2010年。
  • 以下続刊

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