2006年6月24日土曜日

武術の創造力

  私は甲野善紀という人が好きで、テレビやなんかで見ると、すごく得した気分になれるのです。なにが得かというと、動いている甲野善紀が見られるということ。古武術を通して身体を再発見、再構築していった甲野善紀が、その所作をあからさまに見せてくれるのですよ。現在、私たちが当然のように思って、疑問をさしはさむこともしない動きの常識を真っ向から崩してくれて、すごい!

私の、人やなにかを好きになる条件のうち最大のものはなにかというと、私の知や思いが届かない世界を垣間見せてくれるということなのです。自分はこんなにも知っていなかった、まったく考えがいたらなかったということを思い知らせてくれる人。甲野善紀はまさしくそうした私の敬愛して已まない人物のひとりであります。

で、『武術の創造力』を取り上げてみたわけですが、それはなんでかというと、たまたま手に取ってしまったからというのが最大の理由です。実は、テレビで甲野善紀がいろいろやっているのを見てしまって、もう嬉しくてたまらなくなってしまって、甲野本でなんでも書いてみたいと思ったのでした。実は以前『ちちんぷいぷい』で古武術を介護に応用するというのを見たときにも同じように思ったんだけど、この人の本に書いて、テレビやなにかで話して、そして実践していることについて、わかったわかっているとは到底思われないものだから躊躇してしまって書けなかった。だから、今日はなにも気張ることなく、手に取って読んでしまった本『武術の創造力』でいいやと、そんないい加減な理由で決めました。

『武術の創造力』は時代劇、時代小説なんかが好きで、はまってしまっている人にはきっと面白いのではないかと思うのです。甲野本では身体の使いかたがメインになることが多く、そしてそれは『武術の創造力』においても同様なのですが、けれどこの本はそれだけでなく、日本の刀剣についての知識、常識、そして逸話やなんかがちりばめられていて、面白い。私は高校に通っていた時分に日本刀に興味を持って、図書館でいろいろ読んでみたりして、だから当時は刃文の種類とか沸、匂がどうたらこうたらとか、結構覚えたりしていたんですが、なにしろ読んで覚えただけの知識だからすぐに抜け落ちまして、いまでは村正茎やら三本杉やら、そうした特徴的なところしか覚えていません。日本刀を振ったこともなければ持ったことさえないのですからそうしたこともしかたがないとあきらめてしまっていますが、けどそうした半端知識の私にさまざまな実際の感覚も含めて教えてくれるこの本はすごくありがたく面白いのです。

この本は甲野善紀ひとりで書かれた本ではなく、多田容子との対談になっています。多田容子は柳生十兵衛を主人公とした『双眼』でデビューした作家ですが、このデビュー当時の印象があんまりに独特だったから、普段ハードカバーを買うことの少ない私が珍しく買ってしまっているんですね。で、今回の本も多分多田容子だったから買ったんじゃないかと思います。書店の店頭で多田容子と甲野善紀の名前がそろったこの本を見て、なにしろ多田容子は自身手裏剣を打つという人ですから、こりゃ面白いに違いないと思って、この直感は間違っていなかったと思っています。

多田容子の興味や個性、やっていることがうまく加わって、他の甲野善紀本にはない味が出ている本であると思います。甲野善紀をまだ知らないという人には向かないかも知れないけれど、甲野善紀を知っていて、時代劇にも興味があって、より深く広くを求めたいという人にはよい本なのではないかと思います。

そうそう。昨日取り上げていた『燃えよ剣』についても少し触れられています。このことについてもちょっと嬉しくなったので、余談ながら。

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