2006年6月23日金曜日

燃えよ剣

   新撰組について興味が出たら、まあこの本から読んでみるとよいよといわれるスタンダード中のスタンダードというと、やっぱり司馬遼太郎の『燃えよ剣』なんだろうと思います。実際、新撰組に関するブックガイドなんてのを見てみるとまず間違いなく『燃えよ剣』は入っているし、そもそも新撰組に関する記述を追えば、そこかしこに『燃えよ剣』の影を見つけることができます。その語り口であったり人物像だったりに、司馬遼太郎の影が見える。『燃えよ剣』の影響力は絶大であったのだと驚くほかないですね。

でも、読んでみればわかるんです。なんでこれだけの影響力を持つにいたったか。面白い。人物が生き生きしている。そして土方が格好いいんですよ。新撰組という組織をただただ強くすることを目的に生き、そして新撰組をもろとも抱いて転戦転戦、ついに箱館の地に斃れる男土方歳三義豊の姿のまぶしさよ。この本を読むと、まあ土方ファンになるでしょうよ。それくらい魅力的に書かれていて、実際あれだけ隊士を率いていた隊の副長であったのですから、カリスマも並々ならぬものがあったのだろうと思います。

実をいうと、私は最初、それほど新撰組は好きではなかったのですよ。というか、アンチだった。瓦解寸前までに古びてしまった旧体制を守らんとする彼らの姿に、私は多少のロマンを感じつつも、時代に取り残された、変化についていけなかった者たちの固陋さを思ったのです。けれど、この本を読んでみると、多少なりとも見方が変わる。むしろ土方たちに同情的かも知れない。特に後半分のくだり。主に捨てられるようにして行く先を見失おうとする隊は解体の憂き目に遭い、しかしその逆風に敢然と突っ立ち自らの進退を明らかにしてゆく土方歳三はかっこうよくて、生き方としては不器用なのかも知れないけれど、その意固地なまでに自分の生き方を貫こうとする姿には憧れさせるものがあります。浮き草のように目的もあやふやにあちらこちらふらふらとする私のような人間には、まぶしすぎるくらいにぎらぎらと輝いていて、やっぱりこの本を読むと土方歳三にとりつかれるのだと、そう思わないではおられません。

  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』上 (新潮文庫) 東京:新潮社,1972年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』下 (新潮文庫) 東京:新潮社,1972年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』東京:文藝春秋,1998年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』上 東京:文藝春秋,1973年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』下 東京:文藝春秋,1973年。
  • 司馬遼太郎『新潮現代文学』第46巻 東京:新潮社,1979年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』第1巻 (大活字本シリーズ) 東京:埼玉福祉会,2005年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』第2巻 (大活字本シリーズ) 東京:埼玉福祉会,2005年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』第3巻 (大活字本シリーズ) 東京:埼玉福祉会,2005年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』第4巻 (大活字本シリーズ) 東京:埼玉福祉会,2005年。
  • 司馬遼太郎『燃えよ剣』第5巻 (大活字本シリーズ) 東京:埼玉福祉会,2005年。

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