2007年7月1日日曜日

メガネ×パルフェ!

 サトウナンキがそうなんだと思うんですが、きづきあきらの漫画からはどうにもこうにも分析好きの匂いがしていて、そういうのを分析好きの人間が読むとはまっちゃったりするのかなあ、なんていうのが第一印象。実をいいますと私も結構な分析好きで、面白そうなものを見付けたりすると、これってどういうものなんだろうと分析しはじめるようなところがあります。漫画にしても、映画にしても、ゲームにしても、そして人間にしても、そのものが私に与える印象に始まり、私との関わり、位置づけ、その意図もろもろ、とにかく分析せずにはおられないところがあります。対象が興味深ければ興味深いほど分析欲も強まって、そんなような私ですから、きずきサトウの漫画はこんなにも働き掛けてくるのでしょう。『メガネ×パルフェ!』などは実にそんな感じで、私などはもうあらがえない。ほんと、予備知識なしに読んで、かあー、こいつはいいわと恐ろしく気に入ってしまった漫画です。

『メガネ×パルフェ!』、タイトルだけではちっとも内容が予想できません。内容はというと、通称白衣メガネ部においておこなわれる恋愛実験とその顛末を描いたもの。恋愛実験っていうのは、一種の心理学実験ですね。ちょっと心理学に詳しい方なら御存じでしょう、俗に吊り橋効果などといわれるの。一緒に吊り橋を渡っていると、吊り橋が与える動揺、常よりも高まる心臓の拍動であるとかが、隣にいる彼のために生じているものと心が勘違いして、恋愛ゲージがプラスに傾く、そうした心理的な動きを説明するものでありますが、白衣メガネ部においてはそれを人為的にやっちまおうっていうんです。しかし、これは危険ですよ。ってのはですね、生易しくないんですよ。人間の心理っていうのは想像以上にいい加減で、こういう実験実際にやってみれば一目瞭然なんですが、あっけなく負けます。実験だとわかってやっていても屈服させられます。本当、それくらいの威力があるもんなんですよ。

って、なんで知ってるかというと、私も昔やってみたことがあるから。以前にもちょろっといったことがありますが、私は一時占い師をやっていて、ありがたいことに結構評判よかったのですが、実はその評判を支えていたのは、霊感や第六感といったオカルト的なものではなく、心理学の知識でした。私は大学入って心理学の講座をとって、その面白さに目覚めて、自分でもいろいろ読んでみたりしていたのですが、そうしたらそこにはさっきの吊り橋効果みたいなのがわんさと載っているわけですよ。で、それを自分にも適用してみたことがあって、そうしたらすごいの、効き目が。ものすごい勢いで対象にときめくようになって、こいつは危険だなあと思いました。

これが占い師時代に役立ちました。恋愛成就を願ってくる人に、じゃあこんな風にやってみるといいよなんて、過去の経験から効きそうなものを紹介して、その結果、成立したカップルはひとつやふたつじゃなかったですよ。こと私のクライアントは女性が多かったから、男篭絡するのはたやすいのかもなあなんて思った時期があったくらい。さながら私は昔話の魔女気分でした。

生かじりの私のアドバイスレベルのでもこんなですから、『メガネ×パルフェ!』で究太朗がやったような綿密なのほどこされれば、その威力はいかほどなるか。種々さまざまなもくろみが強烈に作用して、これをはねのけられる人間ってどれだけいるのかなあ、私なら絶対無理でしょう。それくらいに人間の心理は状況に左右されます。けれど、こうしたからくりを知ったことで、生じた心の動きを切り開いて、その発展を止めてしまう人もいるんだということを改めて思ったのもこの漫画でした。

実験とわかっていながらも引かれあう心があれば、自然の、偶然の結果、引かれる心もあって、この漫画ではこうした二種類の恋心が対照されているのですが、この二種類の恋心、一体どっちが本当なんだろうっていうような話。どっちが本当なんだろう、っていうのはですね、自分の情動含めて分析対象にするような人間にとっては、どっちもたいして違わないんです。恋愛の初期において、はたして自分があの人に対して抱いているこの思いはなんなのだろう、恋なのだろうかどうなのか、そういうのを自問自答する段階があると思うのですが、この時、分析的な人間は、それまで二人の間に起こったいろいろをことごとくピックアップして、それぞれが自分の心にどのように働きかけたかを知ろうとするんですね。で、これやると大抵恋心は駄目になります。で、こうして恋心を駄目にしてきたのが究太朗なんだろうなあと思います。

でも、そういうなんでも分析して捉えられるというような考え方は違うんだよと思うんです。結局はそういう考えは、人間ひいては心というものを侮った、傲慢な考えなんだと、すべてを自分の思い通りにしようだなんておこがましいことなんだと、そんな風に思っています。だからこそ、私はよりこの漫画に引かれるものがあったのでしょう。残念ながらこの漫画は、いよいよこれからというところ、ミドルゲームを前にして閉じられます。おそらくは私の一番読みたかった、恋にとらわれ、恋にうろたえる情景がこのミドルゲームにおいて展開されるのだろうなと思うものだから、ちょっと残念。けれど勝者が誰かというのはもうわかっちゃってるようなものなので、いや敗者か。いずれにせよ、この漫画における勝者とは、ヒロインみさおであるんだと思うのですよ。そしてここまでわかれば、後は詰めだけ。自分の胸の中で、その詰めまでの動きを思ってみるのもまたひとつの楽しみだろうと思います。

とはいうけど、読めるものなら読みたかったななんて思うんですけどね。

  • きづきあきら,サトウナンキ『メガネ×パルフェ!』(ガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2007年。

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