2011年7月11日月曜日

放課後のピアニスト

 『放課後のピアニスト』をはじめて見た時、お、ピアノものか。また音楽ものが増えてきたな。そう思ったものでしたね。高校のピアノ部を舞台に、部員4人が好きなピアノを弾く。天才を感じさせる女の子響レミ。かと思えば天才そのものの黒木志土。この学校普通校なのに、なんでこんなに天才肌の子らが集まってるのか? なんて思ったら、その点ちゃんとフォローがあって、なるほどレミはライバル山田曽良を追って、シドは経済的な事情から、音高ではなく普通校を選んだわけか。ピアノ部部員、皆かなりピアノを弾く。けど、優れたものがあればどこか抜けていたりもする。そんな彼女彼らの放課後、ピアノをめぐるエピソードがほのぼのだったり、楽しかったり。そうした様子に、ほどなく好きになっていったのですね。

しかし、4人いる部員、ピアニスト、それぞれに違ってる個性、これが面白いなって思うんです。花野羅々、ララ先輩こそは普通の人。で、ここからがすごい。本気を出せば天才的で、けど練習は散々なレミがいたかと思えば、レミとは対照的に完璧の上圧倒的に弾いてみせるシド先輩。けど、その完璧がために、次々ライバルの自信をなくさせてしまうのが玉に瑕とかね。そして、うまいことはうまいんだけど、レミやシドのような輝き、もう一歩を得られないソラ。彼らの設定がいいと思うのは、あながち無茶苦茶でもないってことなんですよ。練習では間違いだらけのレミは、失敗から学んでいるっていうし、体力がなくて常に本気、全力投球できないみたいな話もあって、ああこれはレミに共感するピアニスト、多いんじゃないかな。ええ、私もそういっていいかも知れません。ピアノじゃないけど、体力面の弱さから、断念したことあったものなあ。

とはいうけれど、断然共感覚えるのはソラですよね。そつなく、ミスなく、ちゃんと弾ける。けど上手であって素敵じゃない。この人、器用貧乏ってやつみたいなんですね。ピアノ以外の楽器もできる。勉強もできる。お菓子も上手に作れる。すごいな、そう思うんだけど、おそらくは彼はそうしたところに悩みを抱えていて、なんでもできるが、そのどれもが抜群にできるわけではない。なら、とりわけ大事なピアノのこととなればどうだろう。ええ、悩むだろうと思いますよ。だからこそ、あの時の台詞がよりいっそう重みを増すのでしょう。

おまえはなれて当たり前じゃない ピアノのためならほか全部捨てられるだけなんだ

これが好きだ、このために他のなにが犠牲になったってかまわない。そういわんばかりのレミの様子に、自分は覚悟が足りないと反省したソラがですね、よかったなって思ったんですね。彼の、ピアノで成功できるかどうか、自信はないし、確証もないけど、逃げないって決めた。その決心にはたと打たれた思いだったのですね。

と、こういうところばかり抜き出しちゃうと、なんだかハードなピアノ根性漫画(ピア根?)みたいに思われそうだけど、もちろんそうじゃなくて、最初にいったようにほのぼのとした暖かみ、それが持ち味。ピアノ部の皆も、個性的、ちょっとしたたか、けどすごくいいやつ! そんなでしょう。読んでいて楽しく、面白いのですね。レミやソラの家族だって、すごく暖かい。これはピアノに打ち込む少年少女の漫画であると同時に、家族や友人たちとの暮らしの風景、そこにうかがえる生活感、おかしみ、人のよさ、そうしたものを描いたものでもあるのですね。

そうだ。作者十野七は、『アフタヌーン』の四季賞、『すみれの唄』で大賞とってるんです。これ、合唱ものなんですが、すごく面白かったの。で、『放課後のピアニスト』の人、『すみれの唄』も描いてたんだよって後から知って、えーっ、そうなのか。なんか納得しましてね、ええ、音楽もの、ちょっとリアルな実感を盛り込んでくる。そうしたところがうまい人だと思うのでした。

  • 十野七『放課後のピアニスト』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

引用

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