2011年7月1日金曜日

「自殺社会」から「生き心地の良い社会」へ

 先日、twitterで自殺についての考察、といっていいのかな? そういうのがちょっと流れてきましてね、それで私もいろいろ思うこと書いてたら、おすすめの本があるよと教えてもらったのです。その本というのは『「自殺社会」から「生き心地の良い社会」へ』。NHKで自殺に関する番組を作っていた人が、有効性のある自殺対策とはなにかと考えた末、退職。自殺対策に取り組むNPOライフリンクを起こした。清水康之氏ですね。この人と文化人類学者上田紀行氏による対談本であります。

この本は、タイトルにもあるように、年間3万人を超える自殺者数が問題となって久しい日本の状況、人を自死へと追いやる、そんな社会から、生きていて心地の良い、そんな社会に転換していくにはどうしたらいいか、そうしたテーマを扱っています。また内容も、データがばりばり出てくる、数字や表、グラフが山ほど出てくる、といったようなことはなく、対談という形式もあって、ものすごく読みやすくなっています。

序盤は自死遺児についてのエピソードからはじまるのですが、これは意外でした。なにせ自殺の本ですから、自殺をする、自殺をしそうな人、当人とその人を取り巻く環境の問題がメインと思っていたからなんですね。けれど、それが自死遺児から入っていくというのは、著者である清水康之氏の自殺問題に関わっていった、そのプロセスをなぞっているのでしょう。なぜ氏が自殺問題に興味を持ったのか。そのきっかけは自死遺児の問題だった。親が自殺したといえない、いってはならないという社会風潮の中で苦しんでいることや、また自分はなぜ親の自殺をとめられなかったのだろう。あるいは自分は見捨てられてしまったのか、などなど。このあたりは、本当に読んでいてつらかったです。涙なくしては読めない、そんな痛ましさに満ちていて、けれど読まずにはいられない。そして対談は、追い詰められ、自殺にまで追いやられていく当人の問題にうつっていって、そしてこれもまた悲しい話であるのですね。

この本のいわんとすることは、自殺はともすれば個人の問題ととらえられがちだけれど、そうではないんだということです。自殺は、自殺者を取り巻く社会の問題であり、ひいてはその社会を構成する私たちひとりひとりの問題であるということ。人を自殺に追いこまない社会、それはどういうものであるか、いろいろな文化や取り組みの事例を紹介しながら、それは生きづらくない社会だ、生き心地の良い社会だと説くのです。日本社会の意識や構造について、失敗すること、立ち止まることについて異様にネガティブなとらえ方のされることが、ドロップアウトに対する強烈な恐怖を感じさせるにいたり、限界まで頑張るよう追い込んでしまう。はたして、それは正しいことなのか、それはいい社会なのか? 人生の途上で立ち止まり、自身を振り返れるような、そんな時間を持つことも許されない社会。それは仮に経済的に成功したとしても、しあわせと感じる、そうした価値観からしたら決して成功とはいえないのではないか。これまで日本は、経済的成長や金儲けといった刹那的な幸福感情ばかり求めてきたけれど、そうではない、持続的に感じられるしあわせについて考える社会に変わっていくべきじゃないか。

こうしたことが語られているのですね。

私は以前から、この国の再チャレンジのしにくい社会構造について不満で、それこそ日本に必要なのは人生ゲームにある開拓地、一発逆転も可能というチャンスがあるということなんじゃないか、などと思ってきました。また、年中無休、24時間営業も珍しくなくなった、そんな社会に対しても、それこそ自分の子供時分がそうだったように、正月になると店がぜんぶ休みだった。盆もそうだった。夜なんて、どんな店も早々に閉めてしまってた。それは不便だったかも知れないけど、それでも皆それを普通として暮らしてた。しかし、今はなんでそう思えないんだろう。疑問に思ってきて、ネットで買い物すれば翌日翌々日には届く、そんな社会の便利を当然のようにうけながらも、もっとスローでいいのに。もっと穏やかな社会でいいのに。そう思っていました。

だものだから、この本は私には共感をともに読み進めることのできるものでありました。苛烈さよりも穏やかさ。仕事や生活に追われるばかりでなく、家族や友人など、大切な人とともにあれる時間を大切にできたり、またひとりゆったりと休める、そんな社会に憧れる人間にこそ、読んでしっくりとくる本であったと思います。そして、そういう穏やかな社会は、自殺者も生みにくいかも知れない。それはつまりは、自殺するまでもなく普通に暮らす人たちにとっても、暮らしよい社会なんじゃないか。自殺者について考え、その対策を練るということは、自分たちの社会をよくするということに他ならないのではないか、そう思わせられるのですね。

自殺というと、人によっては自分には縁のないものと思うかも知れないけれど、そうじゃないんだ。彼ら彼女らの死を思い、続く被害者を生まないよう取り組むことは、自分自身の生活を豊かにするということであり、また、いつか自殺に追いこまれるかも知れない自分自身や身近な誰かを支え助けるということなのだ。そうした意識を強く実感しました。

最後に清水康之氏のNPO、自殺対策支援センターライフリンクと、その活動のひとつであるいのちと暮らしの相談ナビ、これらを紹介しておこうと思います。特に後者は、自殺しないにせよ、失職したり病気になったり、人生に起こりうる大変な状況、それらに直面してしまった時の助けになってくれるサイトであると思います。今は大丈夫、そう思ってる私も、いつか頼るかも知れない。それは、やはり自殺問題は他人事ではなく、自分の問題であるということなのだろうな。そう思わされるのですね。

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