2006年5月31日水曜日

夜回り先生

  『夜回り先生』は小学館の漫画雑誌『IKKI』に連載されている漫画で、夜学の教員水谷修氏の手記『夜回り先生』が原作です。漫画は土田世紀。あの独特のタッチ、濃密な描写が現場のリアリティをいっそう際立たせて、人間臭さも強烈に押し寄せてきて、引き込まれてしまいます。すごい漫画です。私は目が離せない。そして、こういう現場が日本のあちこちにあるということを意識して、そして意識しながらも見過ごしにしてきた今までを振り返って、恥ずかしい。私は毅然として立ち向かえない。けれどこの漫画に一度触れれば、人間の可能性を信じたいという気持ちが湧き上がって、もし私がこうした場に立ち会うことがあらば、その時は一歩を踏み出してみようという思いもするのです。

しかしなにがすごいというのか。漫画の表現力もそうです。しかしそれ以上に、水谷氏の立ち会ってきた現場の状況が胸に迫ってきて、助けを求めている子たちが街という街にあふれているのかも知れない。人知れず、闇に潜るようにして、いつか助けの手が差し伸べられることを、いつか光の差すことを期待しているのかも知れない。そう思うと、悲しくて切なくて、仕合せのはかなさに思いをいたらせて、誰もが仕合せであればいいのにという思いにとらわれて、けれどただ嘆くだけの私はなんという卑怯者であるかと恥じます。街に出ればいい、瀬に降りればいい。難しいこともあらば、負いきれないこともあるだろう。たくさん、たくさんあるだろう。けれどだからといって、難しいからといって、手をこまねいているのが利口なのかというと、私には決してそうは思えないのです。

『IKKI』2006年7月号。『夜回り先生』にて、水谷氏の言った言葉が忘れられません。誰も待ってくれないと絶望をあらわにする少年に、

待ってるさ!! 俺が待ってる!!

俺じゃダメか…!?

きみにとっては通りすがりのオジさんだ… だけど…俺は通りすぎることができない…

通り過ぎることができない……。この言葉を、いったいどれだけの人が求めているでしょう。この言葉が、いったいどれだけの人を救うでしょう。そして見過ごしにできない、見過ごしにしてはいけないことは、この地上にはあふれています。だから、私もいつか、通りすぎることができず、立ち止まるのかも知れません。

  • 水谷修,土田世紀『夜回り先生〜ブランコ』(IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • 水谷修,土田世紀『夜回り先生』第1巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • 水谷修,土田世紀『夜回り先生』第2巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • 水谷修,土田世紀『夜回り先生』第3巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2006年。
  • 以下続刊

引用

  • 水谷修,土田世紀『夜回り先生』,『IKKI』2006年7月号 小学館,305-306頁。

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