2005年7月14日木曜日

メイキャッパー

   先日、『鉄鍋のジャン』を評して、少年チャンピオン連載の面目躍如だなんていっていましたが、今日紹介しようという板垣恵介もまさに少年チャンピオンらしい作家です。板垣恵介は『グラップラー刃牙』でよく知られた漫画家で、この『グラップラー刃牙』というのもまたすごいのです。格闘の漫画なんですが、世にあふれ返る格闘漫画とは一味も二味も違って、まさに独特の価値、孤高の位置を確立しているといってもよいでしょう。絵がすごく、せりふまわしがすごく、そして表現がすごい。あまりにも強すぎる灰汁のせいで、嫌い、読めないという人も少なくないと思いますが、しかし少年チャンピオンという雑誌は、こうした灰汁の強さに決してひるむことなく堂々掲載してみせて、ほかにはない個性を主張するかのよう。その誌面は強烈にして芳醇。軽佻浮薄のはやりすたりなど意にも介せぬ名作の森といってよいかと思います。

さて、今や板垣恵介といえば『バキ』の人みたいになってしまっていますが、デビュー作は格闘漫画ではなかったのです。そのタイトルは『メイキャッパー』。メイクアップ、すなわち化粧を題材とした漫画で、その時はまたチャンピオンではなく『ヤングシュート』という雑誌に連載されていたのだそうです。

しかし、メイクアップが題材といっても、さすが板垣恵介というべきか、他に類を見ない、独自の味を出しています。デビュー作ということもあって、まだ絵もあっさりとしていますし、話も非常に素直にできているのですが、しかしそれでもやっぱり板垣恵介だ、と思わせるのだから、よほど最初から歩もうという道を決めていたんだなあということがわかります。

『メイキャッパー』の基本線にあるのは、自信を持てというメッセージなんだと思うんですね。どうしても弱気になってしまうところを、まずは見た目を整えてやるから、堂々といけよというそういうメッセージがあって、こういうシンプルさは嫌いじゃないです。そして自信を勝ち取るためには努力を惜しむなというメッセージが続く。ええ、こういうメッセージも嫌いじゃないです。

私ははじめて板垣恵介の経歴を見たときに驚いたのですが、この人が漫画家になろうと決めたのは二十五の時というのですね。いうならばレイトスターターで、けれどこの人は十年後には結果を出していたのです。おそらくはレイトスターターであることの不利も感じたでしょうし、焦りもあったのではないかと思います。ですが、それでも不断の努力を続け、目指す位置にたどり着いた。そうした、ありたいと思う自分にたどり着くための努力、そして獲得した自信というものが『メイキャッパー』にはほのかに漂っていると感じられます。

ちなみに私は『メイカー』に度肝を抜かれた口です。『メイカー』は『メイキャッパー』第3巻に収録されています。『メイキャッパー』とはちょっと違っていて、けれどこれにも板垣恵介らしさは満ちていて、— すごいですよ。本当にこの人はただものではないと思いますから。

  • 板垣恵介『メイキャッパー』第1巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1997年。
  • 板垣恵介『メイキャッパー』第2巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1997年。
  • 板垣恵介『メイキャッパー』第3巻 (少年チャンピオン・コミックス) 東京:秋田書店,1997年。

引用

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