2009年10月4日日曜日

兄妹はじめました!

  これがもしシリアスを志向する漫画であったらば、全然違ったラストがあったりしたのでしょうか。実は最後まで私が怖れていたのは、ラストに葵の結婚式がくるというやつで、そう、相手が茜じゃないの。これもまたお約束といっていい展開でしょう。花嫁が控室で、兄に挨拶するのね。向こうから光が射していたりして、そんなしんみりとして清浄な光景。ああ、これで決定的に関係は変わってしまったんだ。俺はこれまでも兄であって、そしてこれからも兄であり続けるんだなって、そうした感傷が胸に残る、みたいなね、ほらよくあるでしょう? ありがとうお兄ちゃん、私、お兄ちゃんの妹でしあわせだった、みたいなこといわれたりして、とりあえず私は、なんじゃこりゃあ、って叫ぶかどうか迷っているみたいな、そんなラストでなくてよかった。ええ、この漫画に関しては、真面目にそんな風に思っています。

そう思うのは、多分、茜と葵の関係がすごく私をくすぐったからだと思っていて、恋というには微温的で、けれどまったく望みがないわけでもないかもっていう、そんな距離感。見ていて微笑ましく、そしてなんだか茜を応援したくなるような、そういうものだったからなんじゃないかな、って。それで葵がひどいのね。以前にもいってましたけど、兄の恋心に気付いていながらそ知らぬふりして、コントロールしようとしている。おお、なんという悪女。自分の身を守るために、私は妹、あなたは兄って強調して、そう、茜を恋で縛って繋いでしまったのさ! おお、なんという魅力的な関係。って、いや、そこまでは思ってなかったんだけど、葵の自覚的ではないけれど、兄に甘えているところ、好意を向けられることにまんざらでもないところ、それでいて妹であり続けたいと思っているようなところ。

こんなふたりの、兄妹ではあるのだけれど、どことなく曖昧で、なにかのはずみで揺らぐ、そうした可能性に期待しながらも、どこかしらちょっと怖れている。そうした雰囲気に私はとらわれてしまっていたのでした。すごくやさしげで、すごくあたたかで、ちょっとだけ残酷? けれど、仮に葵のシビアさが酷いと感じさせることがあったとしても、その笑顔が帳消しにしてしまう。むしろ、そうした面を見せられることで、兄への距離の近さ、そのままの葵といった感覚が生まれて、だからなおさらこの娘が可愛く感じられたのだろうなあ。で、茜が一途で、甘いお兄ちゃんで、告白に踏み切れない意気地なしで、けれどその全部がすごく茜らしくって、ええ、茜のことも好きだったんです。

ずっと一緒だったふたりには、甘い甘い恋人の時期はないかも知れないけれど、すっかり落ち着いた熟年の夫婦みたいな、そんなカップルになるんだろうか。なったらいいなあ。そう思っていた。だから、あのラストはよかったって思ったのでした。段々に関係が変わっていくかも知れないっていう、そんなラスト。恋が火花となって散るような、そんな激しさはまったくなくて、そして単行本の描き下ろしも、ちょっと関係が変わってきてる、そんな具合で、まさしく恋に変わっていくかもしれない途中、グラデーションの中間の、兄妹としての情と恋がまざりあいながら、ちょっと恋? でもまだ兄妹? 少しくすぐったいかも知れない関係が、やっぱりやさしくって嬉しかった。そして、萌葱が玉砕覚悟で、そしてそれはその後の可能性も匂わせて、そうした少しずつ恋が動き出しているところ、けれどやっぱり燃え上がるような盛り上がりにはしないところ、とてもいいなと思って、ああ、本当によいラストでした。ほんと、この漫画好きだったと、じんわりかみしめるような、そんな余韻がとてもよかったのです。

0 件のコメント: