2006年9月20日水曜日

がんこちゃん

 萩岩睦美は私の好きな漫画家であるうんぬんとは、これまでも何度かいってきました。例えばそれは『アラビアン花ちゃん』で、そして例えば『パールガーデン』で、でも私が好きなのはこれら旧作だけではありません。以前購読していた雑誌Youに掲載されていた『がんこちゃん』。これが面白かったのです。主人公のがんこ(ほんとは元子と書いてもとこと読むんだけど)という娘はほんとにやんちゃでやんちゃで利かん気で、でも漫画にはがんこの引き起こすできごとの顛末と、振り回されながらもがんばるお母さんの姿、そのどちらもがとてもチャーミングに描かれているから最後にはじんと胸に兆すもののある — 。これは本当に良作です。

実はですね、『アラビアン花ちゃん』の文庫後書きに『がんこちゃん』が少し触れられているのです。作者の発想が『花ちゃん』の時代と『がんこちゃん』の時代とでまるで変わっていない、という話をされているのですが、でもその描き方が全然違っているのでまったく気にはなりません。むしろ同じ発想を根としてこれほどに色合いの違う花の咲くのだなと、いや、どちらが良いと悪いといいたいわけではありません。だって私はそのどちらの花も大好きなのですから。

『がんこちゃん』の本当にいいと思えるのは、日頃がんこの世話に追われて余裕をなくしているお母さんが、なんだか不機嫌だったり怒ってばかりいるのだけど、けど本当は一番がんこの近くにいて、がんこのよさも(もちろん悪さも)がんこの考えも一番に理解しているというそこなんですよね。いや、理解しているとかじゃないですね。お母さんは本来がんこの同類なんです。だから気持ちがわかるのも当たり前で、本当だったらお母さんがやりたい、けどお母さんは大人だから……、とそういう葛藤が描かれたりするのは、見ていてなんだかとてもかわいい。そうですね、こういう描写がなされるのを見て、私はこの漫画はいい漫画だと、この漫画家はいい漫画家だと、心の底から思ったのでした。

ちょっと遊び心があるのもいいですね。『花ちゃん』にて触れられてたのは水族館にてゾウアザラシを逃がすという話なんですが、この話の導入で、お母さんが好きだった漫画、大事にとってしまっていた漫画をがんこがいつの間にか引っ張りだしてきて読んでるというシーンがあるんです。で、その漫画が『プーイ』なんですよ。

そう、この表紙!

『プーイ』も私の好きな漫画で、本当に好きで好きでしかたがなかったから、あの絵を見たときには転げ回るほどに面白かった。で、その後の話というのがまたよかった。作者がいうように荒唐無稽だと私も思います。現実じゃこんなの無理だよなと私も読みながら思ったんです。ですが、萩岩睦美には魔法がある。あり得ないことを、あってもいいよねと思わせる力がある。萩岩睦美の魔法は、こんな風だったらいいなと思うことを素直にまっすぐに描いてみせることで、読み手の心に深く深く働き掛けるのです。

  • 萩岩睦美『がんこちゃん』(クイーンズコミックス) 東京:集英社,2005年。

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