2006年3月11日土曜日

愚者の楽園

今日はコメントSPAMの対処やらなんやらで疲れてしまって、くさくさして、なにに対してもやる気を失ってしまって、そんないやな気持ちでいっぱいになってしまったのですが、こういうときには川原泉の漫画が効くのです。なかでも私には『愚者の楽園』が優しくて、思えばこれは私がはじめて読んだ川原漫画でした。

詳しくは、以前書いた文章を読んでくれ、ていうのもなんだからちゃんと書きますよ。ああ、駄目だ、思い出したら泣きそうになってきた。そうなんですよ。川原の漫画は心の奥底にすっと入り込んで、日頃はかたくなな私も、思わずほだされ、素直になってしまうのです。普段からため込まれているようななにかがどうっと一度に洗い流されるように消え去って、こうしたことをカタルシスといいますが、確かに川原の漫画にはカタルシスがあります。決して大げさなそぶりを見せないのに、大きな波となって押し寄せるようなカタルシスがあります。

『愚者の楽園』を一言で表すとすれば、けなげであると思うのです。私たちは与えられた状況の中で、自分にとって少しでもよい状況を得ようとして四苦八苦しながら生きているわけですが、川原の漫画の登場人物においてもそれは同様。ただ普段はぼんやりとにこにことして見せているからそれと知れないだけなのです。けれど表にあらわれた穏やかさをそうっとのけて見てみると、悩んだり苦しんだり戦ったりしているんですよね。でもその大変なさまを大変な風に見せないから、川原の漫画とその登場人物たちはすごいと思うのです。

『愚者の楽園』のヒロイン麻子さんはまさにそうした人の典型です。この漫画は珍しく(といっていいのかな?)苦境というほどの苦境に立たされていないのですが、それはつまり一般的等身大の少女の悩みというのが素直に表現されているというわけで、恋愛にゆれる心模様もあり、しかし川原らしい苦境に立ち向かうシーンもきっちりと用意されていて、短編ながらも読みごたえのある素敵な小品に仕上がっています。そして私は、最後の最後、小さな人間たちが無力さに打ちひしがれることなく、自分たちにとって大切なものを守ろうと奮闘する姿に感動して、泣いたり、鼓舞されたり、もう大変なことになってしまうのです。

川原の漫画を読めば、大変なことを大変に取り組む必要はないのだと、ただ自分の大切にしたいものに向かって進んでいくことが大切なのだと、たとえ不器用でも、時に自分のちっぽけさにへこたれそうになりながらも、一歩一歩をあきらめないで歩むことが大切なのだと、そんな風に思えてきます。だから、私の心の健康には川原が欠かせなくて、それはちょうど今日みたいな日に実感するのですね。

  • 川原泉『美貌の果実』(白泉社文庫) 東京:白泉社,1995年。
  • 川原泉『美貌の果実』(白泉社文庫) 東京:白泉社,1987年。

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