2005年1月19日水曜日

スタイル・アナリシス 綜合的様式分析

音楽作品について理解を深めようとすれば、分析という作業を避けることはできません。分析と一言でいいますが、楽曲分析とは和声分析や旋律分析、リズム分析、様式分析、形式分析などなど、実に多岐にわたるものでありまして、一度でもやってみればわかることですが、大変面倒くさいものです。私、正直なところあんまり好きな作業ではないのですが、というのはですね、楽曲分析というのはある種恣意的な作業でして、自分の主張にとって都合がいいような結果が得られるように手心を加えたりできるわけですね。だから、まず分析ありきという姿勢は好きじゃありません。といっても、よい分析はそれだけで価値のあるものであるのは確かですから、私も必要に応じて、人の分析を参考にしてみたり、もちろん自分でも分析してみたりしたもんでしたよ。

『スタイル・アナリシス』は音楽分析の手法についての本でして、この本が出たときは画期的であるとして大いに好評だったのだそうです。そうですというのは、なにしろこの本が出版された時、私は中学生だかそんなぐらいの頃ですから、当時の状況なんて伝聞でしか知らんわけです。で、伝聞によれば画期的である、— 実際読んでみればわかりますが、分析結果が実にわかりやすくまとめられていて、画期的であるのは間違いないんですね。

なにが画期的であるかといっても、その音楽を徹底的に図式化しようという意欲でしょう。音楽を視覚的にわかりやすく表すために図式化するということは、確かに普通に行われていることではあります。ですが、『スタイル・アナリシス』では、形式を図式化し、音量を図式化し、経過を図式化し、そしてそれら図式はシンボル化された音楽の要素 — 動機、リズム、テクスチャ、言葉など — によって繋ぎ合わされるのです。

この本に紹介されているやり方で実際に分析して、結果を表したとしたら、対象への理解は大いに進むんじゃないかと思います。分析をした本人にとってもそうですし、その結果を手にした第三者にとっても同様でしょう。もちろん、この手法でも分析者の技量による良し悪しは出ます。けれど、それでも説得力あるいは感覚的に把握できる分量はきっと違ってくるはずです。

でも、まあなんというか、この手法は分析によって得られた結果を図式化するという後作業が大変なものだから、ちょっとやってみようという感じにはならないんですね。いや、私がものぐさなもんだからやろうという気にならなかっただけなんでしょうけれど、実際、あれだけすっきりまとまった資料を作成するとなれば、よっぽどきっちり分析できてなければ無理なんです。最初の地道で詳細な分析作業(本当に地道で詳細)を経て、さてここでその結果をもとに資料を作る、 — 疲れ果てますから。

実をいいますと、昔、こととねの更新で、『スタイル・アナリシス』に書いてあることを実践した分析結果を公開してみようと思ったことがありました。けれど、おぼろげに分析してみて、いろいろネタになりそうなところをピックアップしてそれらしい結果を引っ張ってみて、けれど実際にそれをかたちにしようとする段階で挫折したんですね。いやもう大変なんですから。私がやろうとしたのは、日本のポップスの分析だからたいした分量でもないし、だからこそやろうと思ったのでありますが、それでも断念したのですから、それこそ何十分もあるオーケストラの大曲とかだったら死ねると思います。

とまあ、音楽の分析ってのは大変なもんなんです。いや、分析が大変なのは音楽に限った話ではないんですけどね。

ともあれ、かくのごとく大変な分析なのに、それを総合的多面的にやろうとするのですから、さらにはそれを資料にまとめる必要があるのですから、大変さはより以上のものとなります。けれど実際にそうした作業をやっている人はいるのですから、もう頭が下がります。私は、今でも簡単に分析はしますが、当座必要な分だけを、自分にわかれば充分という仕方でもってしかやりませんからね。もう、まったく怠惰なものでして、けれどこんな分析であっても、するとしないでは最終のアウトプットが全然違ってくるのですから、分析というのはやはり重要な作業なのです。

この本は残念ながら絶版してまして、私が学生だった頃にはすでに刷られてなかったんじゃないかと思います。早いうちに入手しなければなくなると思って、ヤマハの売店に買いに走りましたからね。そういえば図書館の資料が盗難にあったりもしましてね、当時はまだ在庫があったから補充できたのですが、そういうことはぜひやめて欲しいものだと思います。

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