2010年11月12日金曜日

少女素数

 『少女素数』も冬の装い。3月発売の第1巻表紙におけるふたりは、真っ白なワンピースがしめやかに美しく、そして11月発売の第2巻はファーのついた真っ白なコート。あんずにすみれ、寄り添うふたりはほのかに和らぐ暖かみ。見るものの気持ちも自然とほころぶ、そんな絵柄であります。いや、ほんと、背景の白、コート、ブーツの白、そこにあんず、すみれのふたりが浮き上がってくるかのようで、静かで、遠くて、そしてやはり美しいのでありました。

『少女素数』2巻は、その前半分と後半分でちょっと印象が違ってくるな、そんな感想を持っています。前半にはあんずとすみれ、ふたりの姉妹としての姿が目立ち、そして中盤あたりから学校でのすみれの姿が際立ってくる。すみれの少し引っ込み事案で、センシティブな側面、それはこれまでにも描かれていましたけれど、ここでぐっと前面に押し出された感じ。ああ、すみれという子はこういう子なんだ、こうやって思い悩み、こうやって前へ進んでいく人なんだ。傷付きやすく、時に重荷に苦しい息をつくこともあるけれど、こうと信じたことは曲げない。そんな芯の強さを持っている娘で、あるいはそうした曲げられない気持ちがしっかりとあるから、いったん対立の生じれば疲れ果ててしまうのかも知れない — 。私は、描かれるすみれの像に、そうした人物の姿を思っています。

だからこそ、堀切さんはよかったな。すみれとはまた違った、自分のらしさを持った人。すこし大人に見える、けれど多分そうじゃなくて、自分の領域というものを意識してる人なのだと思う。この人に気にいられて、そこでまた人間関係のいろいろあったりもしたけれど、それを乗り越えていく様子、それはすみれのうちにある確かな気持ちの変化を思わせて、ああ、14歳という変わりゆく季節は、こうしたところにもその色を反映させて、ほのか、鮮やか、瑞々しくあったのでした。

さて、前半分の話、あのパジャマパーティーの話はべらぼうに面白かったな。あらためて思いましたよ。ページワンにおける凶悪双子コンボ、こうした策略の冴え、こうした味は『HR — ほーむ・るーむ』にもあったっけ。クレバーでスマートで容赦なし。こういうのが本当に好き。そして、すみれの人気発覚にぽつねんとあんず。これもすごく好き。最後の落ちのフリであるぱっクンも、少年の輝きがあって素敵だな。そう思って、そして落ち。この一晩にあったことが、ここにきれいに落ちてきている、そう思わせるものがありました。

各話の終わりに添えられたカット、それも面白く、本編の展開、その後の様子が垣間見える。ちょっとしたところに、人物が深まる。とてもいいなと思ってて、いや、それにしてもシュルツ泣きする有美ちゃん。これはすごくいい。もともとあの叫んでる表現が好きだってこともあるんですけど、いや、ほんと、すごくいい。ちょっとした必殺技だと思います。

前半に感じること、後半に思うこと、それらは少し違いながらも、けれどその両側面はひとつの状況を描くものに他ならず、それはつまりは、楽しくきらめく光もあらば、時にはメランコリーに沈む、そんな憂いもある。単純でなどありえない、そんな人の生きるということ、ある時期だけを見ても、こんなにも多面であるということなのだろうと思わされます。そして、多面であるからこそ美しい。強くもあり儚くもある、そうした相反する価値を内包する、人の魅力というものがひしひしと伝わってきます。

ちょっと余談。2巻を読んで、連載時には拾えていなかったもの、気付けたこと。それもよかったと思っています。誕生日の回にて、回想に語られた虫めがねの授業のこと。これは、後に関係してくる、そうしたものであるのだろうと気付いて、こうして読み返して気付くものがある。こうしたこともまた、単行本の楽しみ、よさでありますね。

  • 長月みそか『少女素数』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2010年。
  • 長月みそか『少女素数』第2巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2010年。
  • 以下続刊

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