2008年5月21日水曜日

速水螺旋人の馬車馬大作戦

 書店への買い出し、レジ前でのこと。ひときわ大きな表紙とその色、そして魅力的なキャラクターが目を引いて、立ち止まりましたね。鮮やかとはいいがたい、少々くすんだ赤が基調の表紙に、赤毛の女の子がレーション? 食ってる表紙です。娘の服装や描かれている乗り物もろもろ見れば、どうも軍もの臭いのですが、それがどうにも魅力的でありましてね、しかし高いんだろうなあ。本のサイズは26センチ、大型本に分類してもおかしくない判型であるのですが、これなら三千円はとるだろうなあ。そう思って確認したら、なんと千五百円てな具合で、思わず安っ! 買うことが決まった瞬間でした。

しかし、この本は本当に安いですよ。中を見れば、前半分が架空戦記物といいますか、架空の国での架空の戦争、そして架空の兵器が活躍するそんな漫画であったり、詳細解説つきイラストレーションであったりしまして、その名も『馬車馬戦記』。これが面白いのです。著者は、最新兵器とかではなく、ちょっとノスタルジー感じさせるような昔の兵器、第二次大戦からそれ以前といったような頃のもろもろがお好きなのかなあ。実際、あれくらいの時分の兵器は変にロマンが濃厚なところがあって、独特の世界を作り上げているように思います。そしてこの著者は、溢れんばかりの想像力を振るって、そうした時代のテイストを持った架空兵器を描いて書いて描きまくっているんですね。

『馬車馬戦記』第0回「頭上の装甲列車」において描かれたものは、装甲列車ならぬ装甲モノレール。第1回「防空王国」においては空中聴音機なるものを描いて、こうした、ありそうな、けどやっぱりなさそうな、そんな危ういところをついてくる絶妙なさじ加減が面白くてたまらないんです。ないものはないとわかるように描かれてはいるんですけど、実際にあった兵器が比較や導入目的で描かれることもあるから、本当に混乱します。きっとミリタリーに詳しい人たち、この連載がされていた『アームズ・マガジン』の読者とかですね、なら、私みたいにくらくらと混乱したりはないんでしょうが、私はお手上げです。でも、このくらくらとしながら読めるところ、変にリアルというか、あったら面白そうと思わせる雰囲気は、実にたまらんものがありますよ。

この本の前半がファンタスティックアナクロ兵器賛歌であるとすれば、後半はまさしくファンタジー、想像力が支える世界、TRPGリプレイであります。これ、TRPGは知ってるけれどやったことのない私にはその真価をうかがうことはできないと思われて、けれどそれでも、本当に色んなのがあって、世界観からルールから、実に多彩な広がりを持った遊びなのだなあということが伝わってきて、ちょっとやってみたくなったりしましてね、危ないんですよ。いやほんと、肉欲値には笑いましたよ。そんなんあるんだ! 是非プレイしてみたいです! こんな具合。すごい感染力をもった漫画ですよ。

この本の密度の高さは、本当に凄まじいです。緻密なイラストに緻密な解説がのっているから、読むだけでもえらい大変です。その大変さを越えさせるのは、まさしく面白さってやつですね。各話についた解説を読み、本編の手書きの解説も読み、面白いんだけどくたくたになります。だから、正直ちっとも読み込めてなくて、気に入ったところはさすがに何度も読むんですけど、ああ、時間しっかりとって、しっかり読みたいなあ。読み込めば読むほど面白くなることが予感されるから、本当、この本のために休みとろうかしら。

各話解説なんか読んでいますと、どういう本や映画にあったシーンがどうこう、こういう時代、こうした戦争のもろもろはどうした本に詳しいなどということ書かれていまして、ちょっとしたブックガイドにもなるから素敵です。なにしろ私が興味があるのは、戦争の最前線よりも、その裏側。例えば塹壕戦の実際、兵士の暮しや兵站であったりしますから、実に調べにくいのです。でも、この著者ならそういうところ詳しそうで、実際装甲炊爨車なんてきてれつなもの描いてますが、その手書き解説に見えるタイトルなど、見てみたい、読んでみたいって気にさせますからね。だからきっと『西部戦線異状なし』には手を出すことでしょう。つうか、塹壕戦に興味があるなんていって、まだ読んでないとはなにごとか! ですよね。ええ、近々に見ます、読みます。けど、そうやって興味が広がりはじめると、本当に時間が足りないなあ。時間ってやつは、いくらあっても足りないと思いますね。

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