2007年9月1日土曜日

絶対可憐チルドレン

   買おうかどうかどうしようなんていっていた『絶対可憐チルドレン』ですが、結局買ってしまって、読んでみたら面白いの、ってとこまで話してましたね。最強のエスパー三人が難事件に挑む! って感じの話なんですが、そのエスパーというのが年端のいかない女の子で、そして彼女らを統括するのが皆本という兄さん。で、ちょっと人を信じられなくなっていた彼女らと皆本が信頼の絆を築きつつ、敵エスパー組織と戦いを繰り広げると、大筋そういう理解でよさそうです。で、ここで前回いっていた見透かされてたりしましてって話。これなにかといいますと、まあ焦らずちょっとずつ書いていきましょう。

ポイントはいくつもあると思うんですよ。この作者、椎名高志の癖というか芸風がそもそもそうなんですが、ベタを狙いつつ、そのベタを反転してギャグにしてしまうようなところってありますよね。4巻後書きなんてまさにそう。いうならばお約束。読者が望むパターンがあらば、それを実現して差し上げましょうというのが今の漫画の主流なら、椎名高志はあえてその逆をやっちゃうというか、やらずにはおられないというか。この傾向、ベタの反転利用は短編集収録の『マリちゃんたすけて!』にも見られたし四コマ『Dr. 椎名の教育的指導!!』にも充分に発揮されていました。そしてやっぱり『絶対可憐チルドレン』にもそういうところがあって、具体的にいうと第10巻表紙を飾った梅枝ナオミ(16)と谷崎一郎主任(36)との関係なんかが典型例だと思います。

ほら、前回私はこんなこといっていました:

その能力のために社会に受け入れられない美少女に関係する(性的な意味じゃなくて)というのは、一種男の夢なんじゃなくって? 社会は君を理解しないかも知れないけれど、君さえ望むなら、僕は君のそばを離れない! 君のためなら、この命、散らしたってかまわない! なんて思っちゃったりするわけで(しかもわりと本気で)、それが3人、よりどりみどりですか!?

まんまこの通りではないんですけど、ほぼ同じようなことをやっちまっているのが谷崎主任という人で、いうならば光源氏計画ですよね。この漫画の登場人物は源氏物語から名前とられているわけですが、そういうところからすると、ザ・チルドレンの三人を補佐指導する皆本光一からしても、そうなんでしょう。ただ、皆本は主人公だから、ロリコン呼ばわりされたりしてますけど、彼自身は色んな意味でノーマルで、子供たちをよりよい方向に導こうとする、いわば我々の光の側なんです!

じゃあ、影の側ってなによっていわれたらそりゃまんま谷崎主任であるわけですが、自分の立場を利用して、理想の女性を育て上げちゃおうという、まさにピグマリオン。作者は、きっと読者のうちには横島、おおっと、邪なのがいて、この漫画をピグマリオン的ストーリーに読み替えて妄想にふけるようなのがいるとわかっていたから、それを戯画化すべく谷崎主任を投入したんでしょうね。身勝手な男の欲望の発露、そしてゆがんだヒロイズムはこうしてしっかりおちょくられて、私は私で、やられたー、すっかり見透かされてるわと嬉しくなったとそういうわけでした。

私の好きな椎名高志は、こうした部分、欲望や願望に自覚的で、それらを漫画の中に取り込みながらも、決してとらわれないというさじ加減が絶妙だから、欲望喚起ポイントではぐぐーっと引き込まれて持ち上げられて、後でどどーんっと落とされる、それが最高だと思います。わかってるんですけどね、期待しちゃ駄目って。でも期待するようにできてるわけでしょう? 本当、お約束ってのは偉大だと思いますよ。我々(っていっちゃ駄目?)読者は、パブロフの犬のごとく、お約束的ほのめかしにしっぽを振って飛びついて、全裸の谷崎を喰わされたりするわけさ!

でも、椎名高志はギャグだけの人じゃないというのはにもいったとおりで、こうしたギャグで紛らわせながらも、シリアスの軸をちゃんと立てて、シリアスと思わせてギャグに振り、けれどまたギャグがくるんではないかと油断していたら、まっすぐシリアスが待っていたりもして、そしてこのシリアスが利くんです。すごくまっすぐ、直球を投げてくるようなところがあって、その言葉を待っていたというような、この展開を読みたかったというような、けどそれはありきたりといってるわけではないんです。そこにたどり着くまでの工夫、作劇の工夫から、ギャグも交えた揺さぶりから、そうした働きかけがあるから、あの直球が利くんです。はなからあの直球がきたら、なんや、型にはまったこといいやがって、おもろないわ、ゆうてしまいですよ。けれど、私は椎名高志の投げる直球を真っ向からうけてしまう。心まで動かしてしまう。それは、やっぱりこの人の見せ方の妙だというほかないと、あるいは — 、この人の本気具合の確かさのせいなのではないかと思います。

蛇足

野上葵が可愛い、三宮紫穂は超可愛い、だったのが、三宮紫穂は超可愛い、野上葵はもっと可愛いにかわってしまいました。

椎名高志は小物にまでよく気を配って、不断着やらちょっとしたしぐさからでも登場人物の性格がわかるようになっていて、そしたら、まあ、野上葵がたいそうよかったっていうわけです。ああ、もう、なんといったらいいのか、私は一種の変態ですから(いや、別に野上葵が変態好みといってるわけではないです)。

引用

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