2008年6月9日月曜日

こうかふこうか

運がいいとか悪いとか
人は時々口にするけど
そうゆうことって確かにあると
あなたをみててそう思う

さだまさしの歌の文句に、こういうものがありますが、『こうかふこうか』のヒロイン、福沢幸花を見てると、さだまさしならずともそう思いたくなってくる……。というのも、福沢幸花は不幸系ヒロイン。特になにが悪いというわけでもないのに、不幸に見舞われる人っていますが、そういう要素を凝縮しましたとでもいった感じのキャラクターなんでありますね。傘を持たずに出れば雨に降られる。傘をもって出ても、不慮の事故で壊れる、壊される。そうした度に人は運がいいとか悪いとか口にするんでありますが、しかし幸花本人はそうした不運に慣れっこでありますから、結構ひょうひょうとして、不幸を受け入れてしまっている。そんな様がまたまた不憫で、読んでるこちらからしても放っておけんなあという気にさせてしまうというのですね。

さて、このネタはもうちょっと先に使うつもりでいたんですが、まあいいか、プレビューってことで。私は実は不幸系ヒロインが好きです。なぜこの娘がこんな目に遭わねばならないんだあ、なぜ世の不幸がよりによってこの人に! っていうようなシチュエーションになると、リミッターが外れてしまうんです。例えば事件、例えば事故、それから病気、なんでもいいのですが、身に余る不幸、不運を背負わされたような人を見ると、もう放っておけなくなって、感情が暴走する。ああ、うざいことは自分でもよくわかってます。だから日頃から気をつけているんですが、ややもすると、彼女の手助け、私がやらねば誰がやる! いっそ私が身代わりに、みたいになるから、もうどうしようもなくて、母からは詐欺には気をつけろといわれてしまうような始末です。

けど、福沢幸花に関してはちょっと違った感じです。運が悪い。うん、確かに悪い。けどこの人の場合は、神様、なぜこの人がこんな過酷な運命を担わねばならなかったのですかーっ!? と天に向かって叫ばねばならんようなタイプの不運でなくて、なんかただ単に運の巡りが悪いというか、大小問わず不幸不運が五月雨式に降ってくるといった、そういうタイプの不幸系ヒロインなんですね。そしてそうした不幸の中には、あからさまに人災といえるようなものもあって、ひとつは粗雑な青年岩井の引き起こす物損系ネタの被害に遭うといったもの、そして他はといえば、いじめ嫌がらせの類いかね。いや、これも不幸でしょう。それも実際に起こりうる、ありうるという点で非常にリアリティがある。けど、そういうの読むと、ちょっとへこたれそうになるという現実もあって、ああ、うう、世の中ってのは浅ましいものだよねえ、とがっくりきちゃうのさ。

こうした不幸系の話っていうのは、作るのが難しいだろうなあと思います。起こる不幸に人の意図思惑がからんでしまえば、それはもう不幸じゃないよって思う人も出てきます。人によって引き起こされる不幸なら、まったく悪意を持たない、そもそもなんらの意図さえもなかったというアクシデント系、あるいは利害関係のない第三者の行動でといったものでないと、受け入れにくく思う人もあるでしょう。最初は楽しく読んでいるのが、途中で少しでもいらっと感じる瞬間があると、それがほころびとなっていらいらを蓄積させかねない。だから、そうしたいらつく感情を適度に発散させてやるような作りにもしないといけないんではないかと思って、本当、不幸ネタは幸運ネタに比べても、気を使う部分が多いんじゃないかと思うのですね。

この漫画においては、蓄積される負の感想を引き受けようとでもいうのか、岩井という物損系キャラがおるのですが、まあこの男、粗雑、横着、無神経、やることなすこと裏目に出るタイプなんだけれど、幸花と違うのは、圧倒的に自業自得ということで、しかもそのやっちまった結果が他の人間に、とりわけ幸花に振りかかるという、ハザード系キャラであるんですね。さっきもいいましたように、この人の場合は降りかかった不幸というよりも、この人が引き起こした事案といった色が強いから、読んでいる側からしたら、勘弁したってくれって感じが実に強く、実際彼がからまなかったら幸花の不幸も半分、とまではいわんけれど、一定割合はさっ引かれるんじゃないかといった具合。けれど、この人がこういう役割を担わされているのは、読者の心に生まれる黒い感想を引き受ける、いわばサンドバッグ的ポジションだからかなとも思って、けどほんとどうなのかなあ。

1巻読み終えた時点ではまだそれほどポジション確立してないからなんだけど、幸花そして読者に必要なのは、トラブルメーカー岩井より、心優しい同僚たちより、うまくいかなさを共感もって話し合える、慶喜寧々のような人であると思うんです。だから、2巻以降は慶喜寧々の役割が強くなっていくんだろうなあと予想して、けどこの人がからむと、別方向から悪意が注がれる仕組みになっているから、ああもう、なんだ、厳しいなあ。

運のよさに定評のあるという人には、きっと楽しく読める本かと思います。けど、自分はなにをやってもうまくないなあ、人並みにやってるつもりなんだけどなあと思っているような人だと、身につまされすぎるかも知れない漫画です。私ですか? 私は、運の悪さのせいにするには全然努力が足りてないから、読んでて、まだまだ大丈夫です。

  • 佐藤両々『こうかふこうか』第1巻 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2008年。
  • 以下続刊

引用

  • さだまさし『無縁坂

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