2008年6月8日日曜日

メルヘン父さん

 こういう漫画を読んでいると、有能主夫が今求められているのではないかと錯覚するのです。炊事洗濯掃除はいうに及ばず、裁縫手芸から日曜大工、家庭菜園、家族の健康管理などなど、家事一般をこなす頼もしいお父さん。ええと、このお父さん、名前ないのか……。妻文月を支え、ふたりの娘葉月とかんなを見守るお父さんの活躍というか、日々のあれこれを描いて、これが結構面白いんです。四コマに限らず漫画には、駄目主婦、有能主婦ものいろいろあるわけですが、それの主夫版。若い夫、若い二人でなく、結構な年数を経てきた家族の様子を描いて、もしこれが主夫でなく主婦ものだったらどうだったんでしょう。単行本で読んでみて、そんなことを思いました。

家事を担うのはおおむね女性である、そうした先入観があるために、男の家事、それも一般にいわれる男の料理のようではなく、丁寧、繊細、こまやかに気を配りつつ、予算も抑え目という、そういう家事を描いて面白いのは、それをやっているのが男、それもぱっとしないおっさんだからかなと思ったりしたのでした。だって、それだけでギャップですから。意外性に富んでいると思えるのは、女性でも大変な家事を、おっさんがしっかりこなしているからなのだとすれば、それは極めて消極的な読み方といわざるを得ないでしょう。そして、私はそういう見方は嫌いです。だって、もしこの見方を受け入れるとしたら、私は同様に有能女性会社員ものを、男の仕事を女だてらにがんばっている漫画である、女であるがゆえにギャップが生じるという見方も受け入れなければならなくなるからです。けれど、今、仕事において男だ女だということはなくなりつつあります。女性の上司、女性の管理職、女性の営業、普段なんということなく目にするものになっています。だから、これからは家事に能力を発揮するメルヘン父さんも珍しいものではなくなる。そうならいいなあと思う私は、実は主夫志望であります。

この漫画が面白いのは、父さんが有能主夫だからというだけではありません。寡黙な父があって、やり手の母があって、すごく普通の長女があって、内気の次女がいて、それで成り立っている家族というのがよいんです。父が家族の皆を愛して大事に思っているように、家族の一人一人も父さんのことが大好きで、そんな家族の集う居心地のいい家庭においては、皆がすごくのびのびとしています。外では厳しい課長をしている母さんもうちでは違う顔を見せ、父さんラブラブを隠さない。娘二人も父を頼り、甘え、ちょっとわがままもいって、そうした様子が楽しそうだ。で、お父さんの有能さが家族の要求に応えるところがいい。充分に、時には過剰に。ちょっとがんばりすぎな様子は笑いを誘うし、なにより家族が笑顔というのは読んでいても嬉しい。ナンセンスな笑いも交えながら、春山家の楽しそうな毎日がぱっと明るくつづられるのは、すごくいいなあ。そんな風に思われてならないんですね。

しかし、お父さんがこんなだと、娘の将来が心配です。あれだけ気のつく男はいません。私も男だからいいますが、あんな風には気がつかないものです。気がついて優しいふりはしますが、本当に気がついて優しいというのはめったにあるもんじゃございません。だから、あの娘たちは間違いなく婚期が遅れます。若いうち、まだシビアに男を見つめないうちならともかく、ある程度したらもう駄目でしょうね。だから、他の男を気にする娘に気が気でない父さんも、ひとまずは安心なんではないかと思うのでした。

  • 吉田美紀子『メルヘン父さん』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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