2012年1月31日火曜日

LSD — ろんぐすろーでぃすんたんす

 LSDって気持ちいいっ! いや、もう、これ素晴しい。高校生朝岡椿が陸上に打ち込むという話。最初は、練習よりも会話、おしゃべりが主体なのかな? なんて思ったものですが、いやあ、違いましたね。第2回目ですよ。勧誘活動も終わり、部活となれば、もうしっかり走るんですね。まずはタイトルにもなっているLSDから。ロングスローディスタンス。ゆっくり長距離を走る、そんなトレーニングなんだそうですよ。軽く、おしゃべりしながら、それくらいの負荷で2時間くらい走る。けど、この時点ですでに基礎体力の違いが現われて、雑談しながら楽々の先輩に同級生、けれど椿はというと、息も絶え絶え。立ち止まらずに前に進む、それだけで精一杯といった様子。まいりましたね。すごく真っ当な部活ものじゃん! スポ根じゃない、楽しい陸上。けど、決して楽々お気楽じゃない。楽しくて、時には苦い、陸上を通じ自分自身と向きあう、そんな椿の感情の描かれよう、それがもうたまらんのですよ。

いや、ほんと。これは、自身なにかに取り組んできた、挑戦してきた、そんな経験のある人にこそ、ぐっとくるものあるんじゃないかって思うんです。初心者のころ、ずっと先に進んでいる人を眺めて、あと1年2年で今のあの人の位置にまで自分はたどりつけるのだろうかと不安になったこと。結果を出したい、少しでも上達したいと、無理をして、けれど焦りすぎて空転、思うように進めない自分が情けなくて、足掻いて足掻いて、苦しんで — 。そうした時期を過ごしたことのある人なら、椿にかつての自分の姿を見付けることもあるかも知れない。また、今、まさにそうした気持ちを抱えているのなら、椿は一緒に頑張る仲間のように感じられるかも知れない。ええ、陸上に打ち込む椿が、本当に気持ちいい。ああ、頑張ってる、そんな椿を応援したくなる、そんな漫画なのですね。

とはいえ、打ち込むあまり、ストイックに生活のすべてを陸上一色に染め上げる、みたいなこともないんです。高校生だもの試験だってありますし、時には遊びたい、そんなこともありますし。安食先輩や高山優子ちゃん、ふたりはゲームが好きで、陸上は長距離を選んだ理由、安食先輩はゲームの耐久チャレンジのため? 我らが主人公椿にしても、それが主ではないといえ、ダイエットに、お腹に腰に期待するところがあったりする。不純でしょうか? いいえ、きっかけや思惑いろいろあるにしても、いざ走るとなったら、もう皆ひたむきに取り組んでいる。走る、すこしでも速く、すこしでも前に。ライバルに勝ちたいという思いがある、自分自身の記録を超えていこう、そんな思いもある。そしてなにより、走りたい。苦しかったりつらかったり苦かったりする、けれどそれ以上に楽しさが優っている。いや、つらさ苦さがあるから、楽しみ喜びもまた深いんだろうなって思うのさ。ただ走ることが気持ちよく、自分が前へ前へと進んでいく、そのことが嬉しくて、ああ、これはすごくいい部活漫画だなって、あの記録会の椿とかさ、もうね、涙を抑えられない。頑張れー。応援する — 。頑張ってるあなたを、頑張りたいあなたを応援する。そんな気持ちがとまらんのですよ。

途中に出てくるフットサル、体育の授業ですね。これは作者がフットサルやってるから、なんでしょうか? 多分そうなんじゃないかなって思うんですけど、部活を離れたサブエピソード。こうした、ちょっと寄り道っぽい話は、陸上一色にならないようバランスとって、椿たちの毎日、部活以外にもいろんなことがあるんだよって伝えてくれる。かと思ったら、ちゃんと部活にも関係してきて、浅見舞さんや高山優子ちゃん、体育のあとでも全然平気なふたりに対し、椿はまだちょっと体力が足りないんだねっていう、彼女の現在位置、それをわかりやすく示してくれたりするんです。また、お父さんや妹、家族との関係。なんかいいですよね。お父さん、もう、娘が可愛くってしかたないんだなってわかって、すごく微笑ましい。で、まあ、お父さんは運動不足なんだと思いますけど、一緒に走ってしっかりへばってくれたおかげで、走りはじめた頃よりずっと力がついてきている椿の姿なんかも見てとれて、ええ、どんなエピソードもちゃんと本線を支える力になっているんですね。ほんと、よくできてる。椿の成長と、それでもまだ足りてないところがあるよって、そのアナウンスの積み重ね、それがあの山場、椿の最初の公式記録、椿の落胆と柘植ちゃんの励まし、あの場面をより強いものにした。ほんと、短いことばに、心に訴え揺さ振る力を持たせる支えになっていました。

というわけで、私、最近走っています。いやね、ちょっと体力つけないとまずいなって思ってたところに、椿たちのあんまりに楽しそうに走る姿を見せられたもんですから、ええい、ああ、走るか。ゆっくりと長い距離を走る、LSDを、きちんとやってみようかな。背中を押してもらえたんですね。

引用

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