『ヒーロー警報!』は『まんがタイムラブリー』に連載されている漫画。けど、主人公が全然ラブリーではありません。表紙を見れば美女抱き抱える好青年。でも実際は、おっさんですよ、おっさん。カバーめくればわかる。ページめくって、本編読んでみればわかります。かつては世界を救うために戦ったヒーローJ、しかし二十余年の歳月はあまりに長過ぎた。美青年だった面影は見る影もなく、こんなにもおちぶれて、とはいうのだけれど、大変ながらも本人は結構楽しそうに暮らしてるみたいだから、まあいいか。
『ヒーロー警報!』、主人公はラブリーじゃないといいました。けど、これはちょっと嘘です。ヒーローJ、本名大川次郎、ヒーローの力を残しながらも、ただのおっさんになってしまった。でも、持ち前の人のよさ、憎めないキャラクター、それが微妙に可愛いんです。食べるものがなくなれば、かつてのライバルであるYや助手Hに金を無心する、もうどうしようもないんだけど、けれど愛されてるんだなあこの人、って思えるような親しみやすさがあるんですね。ええ、ほんと憎めないおっさんだなあ、そんな感じなんです。
さて、そんなJよりも可愛い人がいるんです。それは、ああレディA、川田あんずのことじゃない。Yのお孫さん、かおりちゃんでもないよ。いや、かおりちゃんも可愛いんだけどさ。といったわけで、J以上に可愛い人、それはYその人であります。かつて悪の総帥としてJと戦っていた男。今はなんだか大きな会社の社長になってる。この漫画における最大の成功者でありましょう。しかしこの人が面白いんです。Jとは命のやりとりをしてた仲だというのに、今ではお金貸してあげて、ご馳走してあげてと、すごく仲良くしてる。気のあう友人って感じがひしひしとしています。しかし、この人の魅力はこの先にありまして、孫のかおりのことがもう大好き。かおりのこととなったら、歯止めがきかない。自分の立場も忘れ、かおりへの愛を全身で表現する。その様子がもう最高で、笑わされて笑わされて、もうどうしようもないのですが、しかし、こうした時のYが本当に可愛いのですよ。ええ、おっさんが可愛いくてしかたないんです。
世界征服を企む悪の総帥がいて、悪の秘密結社と戦うヒーローがいて、ヒーローをサポートする助手の少年やヒーローを手玉にとる妖艶な女盗賊がいて。由緒正しいヒーローもの風であり、また少しアメコミ風でもありという設定を作って、二十年たったらすっかり立場が変わってしまったという、そんな漫画です。ヒーローはただのおっさんに、悪の総帥はなんかきれいなイメージの会社おこしていて、助手の少年は普通の会社員、女盗賊だけはあんまり変わってない、みたいな、夢がうまいこと削ぎ落され反転させられた今の様子は微妙にくすぐったくて、おかしい。そして、ここにみんな仲良しという様子が加わることで、ただのナンセンスな反転ヒーローものではない、独特の味が出てくるのですね。独特の味、それは遅れてきた青春ものとでもいいたくなるようなものであります。この味わいは最高。私はすっかりひきこまれるようにして読んでいます。
- トノ・アンナ『ヒーロー警報!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2010年。
- 以下続刊
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