2015年8月14日金曜日

『ダンジョン飯』

 ダンジョン飯』2巻、発売されましたね。それでもって大人気ですね。やっぱ、表紙のマルシル、彼女の魅力がね、相当なもんですからね。もう、マルシル、最高だと思います。彼女、エルフだっていうんですが、もう、なんといいましょうか、女神だとか天使だとか、そういうものだと思い込んでましたものね。え? エルフだったの? 地上のものだったの? あれー? そんな感じ。2巻では、そんなマルシルが光っていました。この物語における社会、そうしたものが描かれて、ああ、これはただ魔物捕まえて、食って、おいしい、ってなだけの漫画じゃないなあ、思わされたのですよ。

ネタバレしますよ。読んでない人は、ここでお帰りくださいね。

2巻はどうも1巻とは毛色が違ってるな、そう感じさせたのは、最初に収録されている「キャベツ煮」、ここからだったんですね。キャベツ煮? 迷宮にキャベツがあるの? しかも魔物食のこの漫画、キャベツが魔物に? みたいに思っていたら、なんと、センシが栽培している。土で作られたゴーレム、そいつを畑にして野菜を育てているという、そんな展開に、あれれ、野生の、野生の? 魔物を狩って食う、そういう狩猟採集生活だけではないのだな、意外と感じられたのでした。

このあたりから、対立が見え隠れしはじめるのも大きかったんですね。これまでは、魔物食に意欲的なライオスとセンシ、中立からネガティブ寄りのチルチャック、そして消極的なマルシル。そんな彼らの、食をめぐるごたごた、抵抗とか文句とかね、そういうのは描かれても、それ以上のものはなかったように思う。けれど、「キャベツ煮」回では、魔法についてのセンシとマルシルの意識、その違いが描かれて、おや、なんかきましたよ? そんな予感させたんですね。

「キャベツ煮」では、自然や環境、そのあり方を考え、そこからの恵みをいただくことを大切にしている、そんなセンシのライフスタイルが光っていました。そして、こんなセンシの立ち位置は、続く「オーク」にてより鮮明になり、なるほど、この世界には種族間対立が根深く存在している。人類から地上の住処を追われたオーク。ダンジョンに逃げ込んだ彼らは、人というものを憎んでおり、およそ友好的ではありえない。けれど、センシとは知り合いなんですね。というか取引相手。オークのおっさんがいう、お前が人間やエルフとつるむとはな、という言葉からは、ドワーフはオークに近しく、そして人間、エルフは、ドワーフに対立的であることがわかります。となれば、なおさらエルフとオークは敵対的というわけで、あの、オークの大将とマルシルの口論。マルシルの置かれた立場からすれば、あそこでオークの大将にくってかかって得することなんてないんです。実際、殺されそうになりますし。けど、それでも一方的なオークの言い分に我慢ならなかった。そんなマルシルからは、この世界におけるエルフと、彼らの歴史に刻まれてきた苦渋、恨みというものが見てとれて、そしてそれはオークにおいても変わることなく、すなわちこの両種族間において歩み寄りなどおよそ考えられないのです。

けど、それがひとつの食卓を囲むことで、軟化する。少なくとも、あの場においてマルシルはオークたちに歩み寄って見せて、そしてオークたちもライオス、マルシルたちを、限定的ながらも受け入れた。種族の歴史からすれば、そうそう簡単には解決しないことも、個々の関係においては希望も持てるのだな。まあ、あまりにマイペースすぎるセンシとかね、それからライオスの素直さとか、そういうのもよかったのだろうなあ。ええ、オークたちからすれば、出会ってみればずいぶんと毛色の違う連中、そのあまりの独特さ、変わりものっぷりに毒気を抜かれたってところなのかも知れませんね。

この巻の見どころはいろいろあるんです。霊たちに悩まされていた彼らが思い出すファリン、ライオスの妹のこと。ファリンの真価について、ライオスはどうもよくわかってなくって、その不見識をマルシルに酷く責められるんですけどね、それでもライオスは妹のことを思っている。そうしたことがわかったのはとてもよくって、けれどその直後にライオスの人でなしっぷりが最前面ですよ。マルシルが、チルチャックが、さらにはセンシが、あまりにあまりと難じるくらい。うん、ライオス、悪いやつじゃないんだけど、あんまりになんというか無神経? デリカシーがない? そんな感じなんですよね。しかし、その分、ファリンの善良さ、美徳が輝くようであります。ああ、ファリン、はやく助けだされて欲しい。

「宮廷料理」にてうかがわせる、この城の来歴。「塩茹で」にてクローズアップされる、チルチャックの人となり。そして「水棲馬」にて描かれたこと、ですよ。この回は、マルシルが、センシが主役だったといっていいと思う。魔法を嫌うセンシが、ここでマルシルに歩み寄る。また、マルシルも、センシの気持ち、それを慮るんですね。名前までつけて可愛がっていた、そんな生き物を解体しようとするセンシ。その様子にショックを受けつつも、センシの悲しみに、心情に思いをいたらせた。それからのマルシルの行動、静かで穏かで、けれど懸命で、彼女の思うところ、それがしみじみ伝わるよう。そしてそれはセンシも同じだったようで、マルシルの申し出を受け入れる、これまで、がんとして受け入れなかった彼が、忌み嫌っていたといってもいいくらいだった魔法を受け入れる。マルシルの頑張りに応えようとしたのかなあ。あるいは彼女の心情、共感に、また彼も共感するところがあったのか。

互いに相容れないものがありながらも、互いに思いやることはできる。そうした様子に打たれました。心の底からの喜びを示したろうマルシルに、そして異質なる考えを受けいれ変化してみせたセンシに、強く感じいった、ええ、とても感動的と思ったのでした。

1巻時点では、向かおうという方向こそは同じでも、同じようには歩めなかった、そんな急拵えのパーティーだったのが、2巻においては、気持ちをそろえ、同じ歩調で進むことのできる、本当の仲間に、助けあい、はげましあえる、そんなパーティーにまでなったのだ。そうした変化を、あえていえば成長を、深化を感じさせる巻であったと思っています。

  • 九井諒子『ダンジョン飯』第1巻 (ビームコミックス) 東京:KADOKAWA/エンターブレイン,2015年。
  • 九井諒子『ダンジョン飯』第2巻 (ビームコミックス) 東京:KADOKAWA/エンターブレイン,2015年。
  • 以下続刊

0 件のコメント: