全姉連の皆さん、ご覧になってますか? 私の一押しの漫画『ナツノクモ』の第7巻表紙は、皆さん方のお好きな姉ですよ。アーネフェルト盗賊団のリーダー、アーネフェルトとその弟カツトシが表紙を飾って、そう彼らが帰ってきたのですよ! 気っぷがよくて豪快で、話せるかっこいい姉とちょっとみっともない弟……。つうか、作者は弟なんでしょうか? しかも、嗜虐性のある姉をお持ちなのでしょうか? アーネフェルトの姉さんの強烈なキャラクター性とその説得力は、すなわち作者篠房六郎が弟であると物語っているとしか思えない。そう、やけにリアルなのですよ、あの物言いが、あの振舞いが、あのカツトシのおびえっぷりが!
でも、私は別にシスコでもシスコンでもなんでもないから、別にアーネフェルトが戻ってきたからってなんとも思わない(嘘)。けど、いよいよ役者が揃ったという感じがしてわくわくする第7巻は、実際に戦闘てんこ盛りの大盛り上がりを見せて、『ナツノクモ』の陽の部分が絢爛に輝いているという感じです。そうなんですね。『ナツノクモ』には光の部分、影の部分というのがあって、非常に陰鬱で圧迫されるような心理描写があったと思えば、その揺り返しかと思えるようなダイナミックな戦闘も見せてくれて、この7巻の見せ場はまさしく陰から陽への切り替え。これまで保たれてきた静があのあまりにも感動的な台詞でもって動に転ずるべく舵を切る、その鮮やかさにうなります。
そしてまたうならされるのは、クランクの作戦の鮮やかさでしょう。これが本当に出来すぎている。大魔道士と騎士団の同士打ち作戦にも心を震わせたものでしたが、第7巻はそれ以上。確かにあまりにもクランクの策がはまりすぎていて、ハッターならずともちょっと退屈かも知れないけれど、けど実をいうと私はクランクでもなくトルクでもなく、ハッターでもなく、それこそミツキに似た精神構造を持っているものですから、ああいう一方的な大殺戮は大好きで、面白かった!
面白かった — 、けれど本当に面白いのは爽快な一方的勝利ではなく、随所にちりばめられたギャグでもなく、それらを縫い取る糸のように紆余曲折しながら語られる、登場人物の心理描写であると思うのです。確かに、戦闘の描写やギャグが増えれば、その分心理描写は弱くならざるを得ないのですが、ですが第7巻は要所要所に大きな山が設定されているから、それら描写が胸にずしんと響いて、涙がにじんだこと一度や二度ではありません。とにかく『ナツノクモ』は振り回してくれるなと思うのですす。
第7巻では主要人物の抱えていることの大きさ重さがはじめてはっきりと語られて、それがきっかけとなって物語の奥底にあるテーマが動き出したと実感できる重要な話を含んでいます。これまでに積み重ねられたことが、いよいよかたちを成そうとしていると感じられて、だから私はこの章をもって『ナツノクモ』は終わりに向かうかも知れないと思い、寂しさを思ったのです。それは、漫画の登場人物であり、またMMORPGのPCであるという意味で二重に架空の人格である彼らの表現形の向こうに、確かにあると感じられる心が、その心が変化し動きを見せる様に、私の心も引きずられるように動き、どうしようもなく揺れるからなのです。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第1巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第2巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第3巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第4巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第5巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第6巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2006年。
- 篠房六郎『ナツノクモ』第7巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2006年。
- 以下続刊
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