『花の湯へようこそ』で書こうと思ったら、もう書いてしまってた。けど、また書く。だって好きだから。というわけで、今日は二度目の『花の湯へようこそ』。銭湯とオフィスを舞台として繰り広げられる、OLよっちゃんの心温まる人情四コマです。
以前、この漫画の一巻が出たときに、こちらではなく『ごちゃまぜMY Sister』の方が先に出ると思っていたから正直意外と感じたのですが、でもこうして順調に巻を重ねたということは、広範な支持を集めているということなんでしょうね。派手さのない、どちらかといえば淡々と季節や時事を扱いながら日常を描くといった趣のこの漫画が支持されるというのは、地味ものが好きな私としては本当にありがたいことだと思っています。
『花の湯へようこそ』のいいところというのは、どこから読んでも楽しめるということなんじゃないかと思います。人間関係もシンプル、キャラクター性も薄いから、あれ、この人誰だっけと戸惑うようなこともありません。とにかく一見さんへの敷居の低さという点においては特筆すべきものがあって、けどじゃあ毎回楽しみに読んでるような私みたいなものにとってはどうかというと、こういう常連にとっても楽しめる要素があるのが嬉しいのです。そう、面白いのは常連です。名前があるのかさえさだかでない人たちですが、職場での同僚たち、銭湯マニアの青年(この人も同僚)、おませな娘とそのお母さん、娘大好きお父さん、金髪のお嬢さん、受験生とその受験生に片思いするお嬢さん等々、もう馴染みになっちゃってて、その人たちの毎度のやり取りというのが楽しみになっていて、この繰り返しの面白さというのは渡辺志保梨の漫画の根幹ではないかと思います。
この漫画の需要層というのは、ある程度年嵩のいった、昭和を懐かしく思い出せるような人たちなんじゃないかと私は思っているのですが、内風呂の普及によって打撃を受けた銭湯という施設が持っていた寄り合いどころとしての機能を取り上げて、そこに生まれる顔見知りコミュニケーション、この独特な人間関係がなんか心地よいと思わせるのです。私が最後に銭湯にいったのはまさしく昭和、五十年代末期かね、その頃はまだ結構銭湯も繁盛していたようですが、今はどうなんでしょう。一時期の打撃を乗り越えて、健康志向あるいはリラクゼーション・レクリエーション施設としての生き残りが図られたりしていると聞いていますが、でも花の湯の位置づけはちょっと違いますね。毎日通っている人がいて、そんな暮らしのなかで出会い、知りあい、言葉を交わすようになってというコミュニケーションが確実に存在していて、こんな感覚、私はもうすっかりなくしてしまった。 — なくしてしまったからこそ、懐かしさをともに、こんな関係もよいなあなんて思ったりするのでしょう。
その中にすっぽりとはまりこんでいたときは、うっとうしくて嫌だったけれど、離れて希薄になれば、またああいうのもよかったかも知れないと思う。けど、私がそういう空間に戻ることはなさそうだから、そのちょっとの思慕を渡辺志保梨で埋め合わせているのかも知れない、だなんていったら言い過ぎかも知れませんが、けどそんな感じがするのは本当です。どことなく懐かしさが感じられ、その上面白くほほ笑ましい、良質な漫画だと思います。
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