2006年10月3日火曜日

ラビパパ

 安田弘之といえば世の中では『ショムニ』なんだと思うのですが、でもこの場合の『ショムニ』っていうのはテレビドラマなんですよね。くやしいわあ。だって、ドラマの『ショムニ』って漫画とは全然違うでしょう。ドラマで見て『ショムニ』のファンになったという人は、多分漫画を受け入れられなかったんじゃないかと思うのですが、私はその逆でドラマを受け入れられませんでした。ドラマ化されるという話を聞いた時にある程度覚悟していたとはいえ、全然違うものになっちゃったなあというのが感想でした。さて、その『ショムニ』の安田弘之の最新刊が『ラビパパ』。なんというのか、この人だんだん独特の味のある漫画を描くようになってきて、なんでかわからないんですが、ウサギの着ぐるみが出てくるという不条理っぷりも味わい深く、そしてそのウサギそのものがパパというのが『ラビパパ』。わあ、安田弘之らしいなあと思った。そして一も二もなく買ったのでした。

でも、なんとなく積んだままにして、読んだのはついこの間のことでした。寝しなに、ちょっと読んでみるか、ちょっとだけ、と思って読みはじめて、最初は数ページで寝るつもりだったんですが、数ページが三分の一に、三分の一が半分にといった具合になって、結局一気に読み終えてしまった。だって、面白いのです。なにが面白いかと言われると難しいのですが、台詞に頼るのではなく、絵やコマを繋ぐ間をもって語るおかしみやナンセンス、ちょっと不条理で、けどたまにハートフルというような多様さが私のつぼにはまって、いやあこの人は味があります。この味というのは、『ショムニ』でも確かに発揮されていましたが、年を経るごとに円熟味を増すというか、引き出しが増えるというか、『ショムニ』で見せたような台詞とキャラクターの動きで見せる漫画があるかと思えば、この『ラビパパ』のように静かだけれどもぐいぐい引っ張るようなのもあって、まさしく静と動の二種類の表現を使い分ける漫画家であると思います。

けど、まさかこの漫画が『紺野さんと遊ぼう』からの流れにあるとは思ってもいませんでした。みゆきママ、旧姓は紺野って、わお、紺野さんか。驚きました。『紺野さんと遊ぼう』というのは、安田弘之の静の中の静といった類いの漫画だと思うのですが、女学生紺野さんをとにかく見て楽しむ(?)というのが趣旨で、気だるげ、無表情、けれど妙にエロティックなところがドキドキさせる、とはいってもエロ漫画じゃないという、非常につかみ所の難しい漫画だったのですが、『ラビパパ』はまたその『紺野さん』とは違った味があって、けれど両者相通ずるところもあって、やっぱりこれらは安田弘之の味なんです。

万人向けではないと思います。『ショムニ』や『先生がいっぱい』ならともかく、『ラビパパ』、『紺野さん』あたりはちょっと人を選ぶかも知れません。けど、読んでみればきっと面白いと感じるところはあるのではないかと思います。癖がある、人によっては面白さがわかりにくい、けどはまればでかい。そういうタイプの漫画だから、誰もに勧めようとは思いませんが、漫画好きなら一度は触れてみるのもいいかも知らんねと思います。

  • 安田弘之『ラビパパ』第1巻 (Fx Comics) 東京:太田出版,2006年。
  • 以下続刊

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