当時は娯楽が少なかった、というわけでもないのだと思うのですが、ひとつ映画があたるとものすごい影響力を持って人口に膾炙して、しかも数年にわたり語り継がれることもあったようなのですね。というのはなにかというと、横溝正史の『八つ墓村』であります。小学生時分のことなのですが、誰も映画なんて見ていないというのに、あのたたりじゃあというフレーズが生き残っていたのですから、その浸透度合のほどが知れると思います。で、実際に私がこの映画を見たのは小学校の高学年くらいだったはずで、テレビでやってたのを見て、多分途中で寝てると思うんですが、だから私には『八つ墓村』の映画といえばたたりじゃの婆さん(ここを見れば、もう満足だったといえる)とそしてあの凄惨な殺人のシーン。この事件というのは実際に起こった事件(津山三十三人殺傷事件)をモデルにしていて、とにかく尋常でない。実際の犯行では頭に懐中電灯を二本、丑の刻参りするようにさしていたといいまして、このあたりは小説の方でも詳述されているのですが、映画ではどうだったでしょうか。
私がこの本をはじめて読んだのは中学二年の春でした。なんでこんなにはっきり覚えているかというと、一個上の先輩が持ってきたこの本に後輩がチョークでいたずら書きしたのを張り倒して、謝らせにいった際についでに借りたからでして、こういう状況が成立するのは春から夏にかけてくらいだから、まあ春だったのでしょう。春のうららかに晴れた日々に、私は『八つ墓村』を読んだと、そういうわけなのですね。
このときに、ようやく物語の全容を知ることができたのでした。過去の事件とその因縁が色濃く残る村で再び起こった事件。果たしてその犯人は誰なのか。過去の事件との関連は!? というような、本当によくできた話だと思って読んで、その後私は機会があればこの本を読んだのですが(機会というのは借りる機会ということ)、毎度毎度怪奇と謎とそしてロマンスが程よく塩梅されたエンタテイメント性の高さに参って、やっぱ流行るだけのことはあるのだと納得したのでした。とにかく読ませる文章です。細かいこと抜きにぐいぐい先に進みたくなるのはさすがの一言だと思います。
で、なんとはなしに調べてみたら、なんと漫画も出ているんですね。しかも二種類も出ていて、確かにあのエンタテイメントは小説という形式にとどまるものではないでしょう。映画だって二種類ありますし、ドラマにもなって(しかも私はこのドラマ見たんだ)、その度に、あの『八つ墓村』をどう扱うんだろうという興味で皆見るわけですから、作り手としても気合いが入るでしょうね。
でも私は、原作が面白かったです。原作至上主義とかじゃなくて、とにかくあの筋を把握するには、本という媒体が一番適しているんではないかと思うからです。
- 横溝正史『八つ墓村』(角川文庫;金田一耕助ファイル1) 東京:角川書店,1971年。
映画
ドラマ
漫画
- 影丸譲也『八つ墓村』横溝正史原著 (講談社漫画文庫) 東京:講談社,1996年。
- JET『八つ墓村』横溝正史原著 (あすかコミックス) 東京:角川書店,1996年。
- JET『八つ墓村』横溝正史原著 (あすかコミックスDX) 東京:角川書店,2002年。
- 影丸譲也『八つ墓村』横溝正史原著 (プラチナコミックス) 東京:講談社,2003年。
- JET『金田一耕助犬神家の一族・八つ墓村』横溝正史原著 (名探偵ドラマコミック) 東京:角川書店,2005年。
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