2006年10月23日月曜日

コンプレックス

  まんだ林檎といえば私の中では、『セーラームーン』の二次創作をしていた人という印象がいやに強かったりするのですが、でもある日本屋で出会ったその人は、すっかりBL作家でいらしゃった。その本というのは『コンプレックス』(ソノラマ文庫版)。やんちゃな少年二人がジャングルジムにのぼってという表紙イラストに私の目は釘付けになって……、といったら正直いいすぎですが、この表紙イラストが妙に気になったというのは本当です。なので、中身をぱら見して、よし買うかと決意して、電車で読んで、ちょっとドキドキした。特に一巻最後の話、あまりにべたといわれればそうかも知れないのですが、けどちょっとああいうの好き。そこに至るまでの過程が、それこそ十年分しっかりと書かれているから、すごくいいなと思って、だからこの続きはどうなるんだろうとずっと楽しみにしていたのです。

そして二巻を読んで、感想はやっぱりべたな展開だなあの一言。だって、これまでの展開があって、今これだけの要素が用意されたら、ああならないほうがおかしいよなというくらいにべた。ある意味期待通りで、すなわちこれ王道であります。でも、こういう王道って効くんですよね。それは、どうせこれからきっとこうなるんだぜと、意地悪な気持ちもある裏腹、期待もおんなじくらいしてるわけですよ。それこそ、き、きたー、思惑通り! ってなもんで、悔しいけどちょっと泣いた。

いや、問題はたくさんあると思うんですよ。結局主人公二人は状況に流されてるばかりじゃないかとか、問題の解決は物分かりの良い第三者にゆだねられてばかりだとか。それこそ重要なポジションに着けながらも最初から最後まで使い捨てのように扱われたような人さえいて、だからこそ余計に泣けたのかも知れませんが、でもそれでもこの漫画においてはそういった部分はしかたがないのかも知れないなとも思うんです。だって、こうした漫画の読みどころというのは、事件や物語の推移、展開よりもむしろ、主人公二人の心の揺れ動き、内面の感情の機微であると思うのです。時に迷い、弱気になりながらも、少しずつ気持ちを確かめあっていく達也と淳一の、その時々の心模様がこそ見どころであれば、物語の起伏はあまりに大きすぎないほうがいい。物語が一歩引いて脇に退いていることで、ふたりの思いのさざめきは一歩ずつ舞台の中央に歩みを進めることができるのです。

そんなわけで、これから先の展開もあるという『コンプレックス』。息子の代の物語もほのめかされ、そして主人公ふたりの行く末も気になる。それこそ、ラストでは必ず泣きますという栗本薫のあおりもあらば、余計に気になってしまうというもの。来月が、来月が楽しみです。

  • まんだ林檎『コンプレックス』第1巻 (ソノラマコミック文庫) 東京:朝日ソノラマ,2006年。
  • まんだ林檎『コンプレックス』第2巻 (ソノラマコミック文庫) 東京:朝日ソノラマ,2006年。
  • まんだ林檎『コンプレックス』第3巻 (ソノラマコミック文庫) 東京:朝日ソノラマ,2006年。
  • まんだ林檎『コンプレックス』第1巻 (ビーボーイコミックス) 東京:ビブロス,1996年。
  • まんだ林檎『コンプレックス』第2巻 (ビーボーイコミックス) 東京:ビブロス,1998年。
  • まんだ林檎『コンプレックス』第3巻 (ビーボーイコミックス) 東京:ビブロス,2000年。
  • まんだ林檎『コンプレックス』第4巻 (ビーボーイコミックス) 東京:ビブロス,2002年。

引用

  • まんだ林檎『コンプレックス』第1巻 (東京:朝日ソノラマ,2006年),帯。

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