この漫画、実にろくでもない感じで — 、つまりなにをいいたいのかというと、実に私好みであるという話なんですが、とにかく出てくる人物というのがどこかおかしい、倒錯していると、まさしく私の急所を狙い撃ちするかのような設定、表現がてんこ盛りだったものですから、もう目が離せないといった有り様だったのです。掲載誌は『まんがタイムきららキャラット』、四コマ漫画誌なのですが、『すとれんじマンション』はショートストーリー形式の漫画です。でもこれが割合にいい感じに四コマの誌面を引き締めるアクセントになっていて、印象も鮮烈、内容も微妙に過激で、好きでした。だから、この漫画が終わったときにはちょっと残念と感じたものでしたが、けど引き際としてはきれいだったと思います。もうちょっと読みたいなあと思わせる要素を残して、けど物語としてはきっちりとケリをつけて、本当にうまいラストだったなと思うのです。
ヒロイン貞島暦からが秀逸。思い込みの激しい微妄想系美少女が、高校時代に片思いしていた男性を追って上京。同じマンション、隣の部屋に入るというところから物語はスタートするんですが、そのサブタイトルが「自覚のないストーカー」って一体どうでしょう。でも貞島の恋心は思いがけない事実のために二転三転翻弄されて、このへんはまったくのギャグタッチなのですが、そのちょっと強引な見せかたが面白くて、つかみは完璧。実際、私の心はこの第一回の時点でしっかりとつかまれて、次回はどうなる、いけいけもっとやれー、ってな感じで盛り上がっていったのですから、そのへん、やっぱり見せかた、話の運びがうまかったのでしょう。だって、面白かったものなあ。
この漫画が扱っているテーマというのは、ある種のアブノーマルでありますが、けれど単純にアブノーマルとはいいきれない類いのものです。そうした微妙でちょっと難しいテーマをギャグとして扱う中で、差別的な表現、差別を助長しかねないような発言も出たりするのですが、私はそうした表現にいちいち突っかかることなく読めて、これ実は意外に希有なことなのです。元来私は、マイノリティに対する差別的なものに過敏に反応するたちなのでありますが、けれどそうした表現が気にならなかったというのは、つまり作者の意図というのがそれら表現の向こうに透けて見えていたからなんではないかと思っています。この作者、テンション高目の表現で、デリケートなテーマをギャグの材料にしたりしていますが、その根は真面目なのでしょう。シリアスなところはシリアスに見せて、しかもそれが見せているだけでなく、正味心が入っていると感じられます。マイノリティに対する共感があるといったらいいでしょうか。偏見がただ過激さを求めたゆえのテーマではなく、マイノリティの生きにくさやなんか、そういうものを取り上げてみたいというような真摯な態度が感じられるから、私はこの漫画をなおさら好きであったのだと思っています。
この取り組みの真面目さはラストシーンにもしっかりと現れていて、ヒロイン貞島暦が自分の恋心に決着をつけようと振り絞る勇気、涙、ほんの数ページに過ぎない短いシーンなのですが、私はじんとしてしまいました。この作者の持ち味というのはここなんでしょう。人の思いや気持ちを真摯に描こうとする生真面目さがベースにある。それは優しさ、誠実といいかえてもいい美徳なのではないかと思います。
- 影崎由那『すとれんじマンション』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2006年。
0 件のコメント:
コメントを投稿