ギターのための『セクエンツァ』があると知って、矢も盾もたまらずに注文したルチアーノ・ベリオ『セクエンツァ第1-第14』でしたが、なんとこれが入手困難とのこと。わお、よりによって本命が!
なんて落胆していたんですが、一時は入手も危ぶまれたこの盤がようやっと到着いたしました。ああ、よかった。このアルバムはベリオの『セクエンツァ』を第1番から第14番まで収録しているのですが、オリジナルだけでなくVIIb(ソプラノ・サクソフォン)とIXb(アルト・サクソフォン)も収録するなど、かなりの充実ぶり。あまりに充実したものだから三枚組にまで膨らんでいるのですが、けど価格はというと2,511円(税込み)、実にリーズナブル。1998年から2004年にかけて収録された、堂々の新録音であるというのにこの低価格を実現するNAXOSレーベルは私たち貧乏人の味方だと、改めて確認する思いであります。
さて、ギターですよ。『ギターのためのセクエンツァ第11番』。演奏者はパブロ・サインス・ビジェガス。知らない人なのですが、ざっとライナーノートを見ると数々の賞に輝いたギタリストであるようですね。けど、こうした経歴確認することもなく、この人が技巧派であることはまあ間違いなかろうなというのは最初からわかっていたこと。っていうのは、この『セクエンツァ』というシリーズは、かなりの技術を要するんですよ。それも普通の技術じゃない。その楽器の可能性を探るとでもいえばいいのか、通常の技法に加え、新技法、特殊技法が盛り込まれていて、並の奏者じゃできないだろうなと、そういう曲なのです。とはいえ、まあプロならやるよな。けどやるだけじゃおさまらん。どうやるかが一大事という曲です。そりゃもう、興味津々っていうものですよ。
聴いてみた感想。やっぱり、今まで聴いたどのギター曲とも違っていて、すごくいい感じ。出だしは、弦を叩いてるのかな? なんだか遠くから響いてくるような響きに澄んだ弾弦が聴こえてくる神秘的な雰囲気、ところがここに突然かき鳴らしが割って入って、技巧的にはフラメンコっぽいかなあ。クラスターでもないしクラングともちょっとちゃう感じですが、ジャガジャガジャガジャガというストロークの内部で響きがうごめいている。もうこの時点ですっかりベリオの世界に魅了されているのですが、けど、これ、まだ出だしなんですよね。
ベリオの曲、特に『セクエンツァ』には、耳に馴染む、心地よいメロディというのはありませんで、そもそも私にはテーマ(音楽でいうところの主題、一般用語のテーマとは違います)があるかどうかもわからんのですが、けど聴いていると次々と変わっていく響きの世界になんか引き込まれるのですよ。ギターでいえば、通常の弾弦にストローク、バルトークピッチカート(E. ベースでいうスラップ)、ハーモニクスなど多様な音色が目まぐるしく行き交い、また恐ろしく高速なトレモロ(よくあんなのできると思う)があったかと思えば、異弦同音を交互に鳴らしているようなのもあるなど、注意深く聴くほどによく細部まで作り上げられていることがわかる。やっぱりベリオは面白いなあと思うのです。
けど、多種多様な奏法が入り乱れる名人芸の面白さは『セクエンツァ』の聴きどころではないのですよ。なにより聴くべきは美しさです。音色の妙が、音のコンポジションが、そのもの美となって響いています。古典派ロマン派的世界とは一線を画している音楽ではあるのですが、けど『セクエンツァ』を聴き込んでみれば、音楽の美とは古典派ロマン派、あるいはバロック等々、耳慣れた音楽のみに発するものではないことがわかるのではないかと思うのです。はじめて聴けば、果たしてこれは悪ふざけなのかと思うかも知れない、それくらいに一般の人のイメージする音楽からはかけ離れた曲たちなのだけれど、けれどそれでもそれらはまごうことなく美であるのです。
いろいろな楽器が、多様な美を志向する『セクエンツァ』ですが、なかでもギターのための11番は聴きやすく、美を感じやすいものであると思います。ポピュラリティがある — 、というのは、これはギターという楽器の持つ親しみやすさがためなのかも知れませんね。ほんと、ギター好きにもギターに関わらず音楽が好きという人にも、等しくお薦めできる佳曲だと思います。
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