2007年4月4日水曜日

さくら

 去年の春、職場、他部署の人が薮から棒に、また森山直太郎の『さくら』歌ってえや、とゆうてきて、え、ちょっと待って、またって、私、『さくら』歌ったこと一度もありませんよ。実に不思議な話。けれどその人の中では私は『さくら』を歌うべきことになっているらしく、だから一年が経って再び桜の季節が訪れた今、森山直太郎の『さくら』に挑戦することにしたのでした。『さくら』 — 、説明するのも馬鹿馬鹿しくなるくらいに有名なこの歌は、森山直太郎のメジャーデビューアルバムに収録されていたものだそうですね。おそらくは卒業の景色を、桜の花の咲き、散る姿に重ね合わせて歌ったこの歌は、詞、曲、歌唱ともに多くの人の心を捉えたようで、早くも森山直太郎の代表曲となっています。実際、つい先月に送った卒業の月において、日本のあちこちでこの歌が歌われたものと思います。

この歌をいよいよ練習しようと思ったのは、先週だったかな? にテレビで森山直太郎がこの歌を歌っているのを見たからで、いい曲だなあ、本当にそう思ったものですから、歌ってみようかなという気になったのです。いや、実は楽譜はもう持っていて、ヤマハの出していた雑誌『大人のギターマガジン ギター倶楽部』の第3号に収録されていましてですね、この雑誌、明らかにベンチャーズ世代あたりのおじさんをターゲットにしていたんですが、そこにも載るくらいに幅広い年代に訴えた歌だということが知れると思います。友情、別れ、その寂しさに希望を重ね合わせる歌の世界は広く、確かに愛される理由はわかります。

私、森山直太郎がこの歌を歌ってるのを聴いては、いつもなんだか苦しそうに歌ってるなあと思っていたんですが、実際自分でも歌ってみて、納得しましたよ。手もとの楽譜はin Gで書いてあって、さらにそこにカポをつけてAbにすると原曲通りになるんだそうで、ええと、そうすると最高音がHigh Cになるんですが……。こりゃきっと出ないだろうなと思いながらも試してみたら、やっぱり無理。High Cにたどり着く前にくたびれきって、仕方がないからカポを外したんですが、それでも無理。しんどそうなんじゃなくて、しんどいんですよ実際、この曲。レンジも広いし、結構大変な歌です。

転調してみました。ええと、3度下げてin Eにしまして(原調から見れば4度下げですね)、そうすると最高音がG、いやG#か。無理っぽいなあ。歌ってみて、歌えないこともないけど消耗がすごい。ちょっと無理。一番で燃え尽きてどうすんねん。ええと、4度下げてin Dにしまして、これならなんとかなりそう。ちょっと歌って、1カポでin Ebにして、これがちょうど私に歌いやすい音域であるようです。ちなみに、私は全然ファルセット(裏声)が利かないので、ファルセット使わなくてもよいようにしています。

練習しはじめた頃、つまり調を探りながらたどたどしく弾き歌っていた頃、楽譜を頼りに音をとり、歌詞もろくろくわからず食い入るようにして読んでいたとき、そのせいか、歌詞にやられて練習にならんのです。歌詞、口語詩と思っていたら文語が混じったりしてぎょっとしたりもしたのですが、それは慣れればなんとでもなります。なかなか慣れることができなかったのは、その歌の表現する内容で、泣いちゃうんだ。いやはや、恥ずかしいことなんだけど。さらば、友よ。別れの瞬間、泣く友人に呼びかける泣くなの言葉のストレートにして強い表現。泣くなと歌う自分が泣いてどうするんだって感じですが、これまで何度も繰り返してきた別れ、おそらくこれからも何度も越えていかねばならないだろう別れ、そうした情景が一度に胸に去来するようで、うっとくる。歌ってると我慢できないんだ。泣いてしまって、歌ってられなくて、とりあえずこうしたことのないようにするというのが練習の最初でしたね。

今はもう泣いたりしないけど、けど油断するといけないのは、

どんなに苦しいときも君は笑っているから
くじけそうになりかけても頑張れる気がしたよ

のくだりで、昔の友人を思い出してしまうんだ。元気にしてるかね、魚山。私はこの歌にあんたを思いだして、そしてあの時ともにいたみんなを思って、そして輝ける君の未来を願っちまうんだよ。私はともすればいつも一人でいたような気になるひねものだけど、けど本当はたくさんの人とともにあって、そうしたあなたたちが仕合せに暮らしていかれれば私もどんなにか仕合せな気持ちになれるだろうと、そんなことを思っています。

全体に若さの感じられる森山直太郎の『さくら』は、けれどそのうちに私たちが何度も経験し、またこれからも立ち会う別れの景色をうちに抱いて、私たちが友人に向ける思いをぱっと鮮やかに照らすようです。ただ聴いていたときにも思ったことですが、歌ってみてなおさらその思いを強くして — 、本当、いい歌だと思います。

引用

  • 森山直太郎,御徒町凧『さくら

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