2007年4月3日火曜日

The Glenn Gould Silver Jubilee Album

 カナダ人ピアニストグレン・グールドは、生前に隠し財宝計画なんてことをいってたそうで、詳細は『グレン・グールド アットワーク』を参照のことと思ったら、この本絶版してるのか。うわ、ショック。買っときゃよかった。ええと、隠し財宝計画ってのはどういうものかというと、いずれピアノを引退して指揮者になるつもりだったグールドは、未発表録音をたくさん残しておいて、晩年にあたかも発掘されたかのように装って高く売りつけようだなんてことをいっていたんだそうです。多分冗談だと思うんですが、この人だったらやりかねないよな。残念ながら計画が実行されることはなかったようなのですが、けれどグールドの思惑の外でこうしたことはおこなわれていて、若い頃のラジオ出演やブートレグ、その他雑多な未発表録音は今もまれに見つけられてはリリースされています。まあ、ファンとしてはこうした未発表録音の発掘はありがたいことですよ。でも、以前Sonyがおこなった新トラック追加の暴挙はかなわなかったなあ。というのは、他でもない『シルヴァー・ジュビリー・アルバム』の話です。

『シルヴァー・ジュビリー・アルバム』というのは、グレン・グールドのシルヴァー・ジュビリー、すなわちデビュー25周年の記念盤であります。実はこのアルバム、そのタイトル自体がパロディになってるそうでして、ホロビッツの『ゴールデン・ジュビリー』をおちょくる意図があったとかなかったとか聞きますが、真意のほどは知りません。プロデューサーだか誰だか、レコード会社の人間が必死で思いとどまらせようとしたとかどっかで読んだことがある気がするんですが、残念、ちょっと思い出せません。

『シルヴァー・ジュビリー・アルバム』は記念盤といえば記念盤で、実際特別ではあるんだけれど、なんか微妙で不思議なアルバムです。まず収録されている作品ですが、基本的にいろんなレコードからの抜粋、一応グールドの軌跡をたどるみたいになんていわれますが、どう考えても選曲が偏ってます。この人はバッハの演奏でよく知られた人でしたが、ここに収録されてるバッハはバッハでもカール・フィリップ・エマヌエル、かの大バッハ、ヨハン・ゼバスティアンの息子です。ベートーヴェンなんかも収録されていますね。けど、ソナタやなんかではなく、リスト編の交響曲。やっぱりなんか変です。いや、グールドらしいといえばすごくらしいんだけど、この選曲、多分悪ふざけみたいな気持ちもあるんだろうけど、それはそれで真面目だったりもするんだろうなあ。

ある意味グールドの本気なんだか冗談なんだかわからない、そういう側面の出ているいいアルバムだと思います。けど、さっきあげた録音、実は私はグレン・グールド・エディションで全部揃えていたから、つまり私の目当ては他にありました。それはSo You Want to Write a Fugue?。グールド作曲の合唱曲。日本語タイトルは『じゃあ、フーガを書きたいの?』。タイトルにあるとおり、フーガについて歌った歌なんですが、歌詞はすごく意味不明。ルイス・キャロル的な世界を垣間見せてくれる味わい深いもので、ヨハン・セバスチャンはいいやつだ、ってそれ一体どんな歌詞だよ! って思わず突っ込む出来です。

これがひとつ。

もうひとつは二枚目のレコードに収録された「グレン・グールド・ファンタジー」です。これ、インタビューらしいんですが、どう聞いても寸劇です、コントです。グールドファンにはおなじみのマーガレット・パチュをインタビュアーにして繰り広げられるグールドのインタビュー・コント。最後には石油採掘リグの上でコンサートをするという、そんな馬鹿げたコント。ほんとに馬鹿。でも結構好き。そうそう、私はこのシナリオを日本語で読みたいために高い日本盤を買っているんですが、これ見てたら、ヒストリック・リターンならぬヒステリック・リターンなんて文言がぼんぼん出てきてまして、つまりこれもホロビッツへの当てこすりですよ(ホロビッツが12年ぶりに復帰したコンサートはヒストリック・リターンって呼ばれたんだそうです。CDも出てます)。で、さっきの石油採掘リグでの演奏ってのはそのヒステリック・リターンってわけで、いや、もちろんこれ収録ですから。しかし、最後の、アシカだかオットセイが鳴いてる中、サンキュー、サンキューっていってるグールドには大笑いです。

さて、私、この『シルヴァー・ジュビリー・アルバム』、ふたつ持っております。なんでか? これこそ、最初にいっていた隠し財宝計画的ってやつですよ。これ、オリジナルとオリジナルに発掘録音を追加したものの二種類あるんです。はっきりいって、追加トラック盤が出たときにはくらくらしましたけどね。おいおい、よりによって二枚組でやめてくれよって思いました。追加されたのは晩年収録のJ. S. バッハ『イタリア協奏曲』と一人多役のコント「批評家特別対決」。悩んだ末に買ったんです。だから二枚。けど、買い直しに近い『シルヴァー・ジュビリー・アルバム』。二度目に関しては、さすがに輸入盤にしましたね。

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