2007年4月28日土曜日

ことゆいジャグリング

 四コマ漫画はただ面白おかしいというだけのジャンルではなくなった、というのは今では周知のことになっていようかと思うのですが、こと岬下部せすなの『ことゆいジャグリング』においては、そうした傾向というのを強く感じます。一見すれば、人付き合いの苦手な娘高城唯が、まったく対照的とも思える明るく人懐こいサーカスの娘山吹小鳥に振り回される、その様を面白がる漫画であるのですが、実はそれだけではないというのですからたいしたものと思います。というのも私は、この漫画のラスト、クライマックスを待つ数回においてそうしたテーマを語られるまで、ちっともそうしたところに気付くことなく、ただ人付き合い苦手な娘たちがとかく元気な小鳥に引きずられて、少しずつ心を開いていく、それだけの漫画だと思っていたのですよ。そう、私はこの漫画を読んで、ほんの一面にしか心を向けていなかった。ああ、反省だわ。いや、ほんとにそんな気分です。

さっき、娘たちといいました。この漫画の主要登場人物は三人。ヒロインの高城唯と同じくヒロインの山吹小鳥。そして、この二人に加わるもう一人が桜坂ひるね。けど、このひるねさん、表紙にも出てこなくって、ちょっとかわいそうだなあ。やはりタイトルが『ことゆい』であるところを見ても、メインストリームは唯と小鳥であったのかなあ、とはいえ、ひるねは常に唯にゆずるかたちであったけれど、中盤からラストに向かう流れにおいては欠くことのできない重要な役割を担っていて、ひるねの変化、まさしく変わることを欲するに至る過程は、この漫画のテーマのひとつをはっきりと表現しています。

けど、やっぱりこの漫画は四コマで、その形式の制約が、そうしたテーマを深く掘り下げさせないんですね。四コマの単位でひとつ落ちを付ける、落ちとまではいわなくとも、区切りがくる。このため、非常に軽く、テンポよく話は運び、反面ひとつひとつの問題に深く踏み入ることは難しくなる。一回数ページという紙数の中で語るとなれば、いきおい必要最低限に切り詰めざるを得ないということなのでしょう。

でも、このシンプルに状況を語る四コマだからこそ、語れたこともあったのだと思うのです。確かにストーリーものが何話にもわたって深く掘り下げるような、そういうのに比べると薄い。あっさりとしている。しかし、エピソードのひとつひとつが、すとんすとんと投げ込まれてくるようなところが四コマにはあって、だからか、この変に不器用な娘たちの関係が、ただの友達から、かけがえのない友達にまで変わるそのプロセスがダイレクトに伝わってきたというようにも思うのです。重厚に展開すれば、その重厚さがテーマをより濃厚に表現し得たとも思いますが、それだと逆に失われるものもあるのだろうと、この漫画を読んで思いました。きっともっと別の伝え方があるのだとしても、その時、その状況における最善を尽くすことが、伝えたいことに素直に向き合い、それを素直に届けようとすることが、その伝えたいなにかをもっともよく表すことに繋がる、そんな風に思える漫画でした。気付けば胸に深く兆すものがある、波立つものもあらば、穏やかに満ちるものもある、そしてささやかな仕合せのかたちが心に残る — 、いいお話だったと思います。

蛇足

ひるねが変に可愛いと思います。変なやつだけど可愛い。唯の方が好みっぽいけど、動いてみればひるねのような気がします。

蛇足2

実はこれではいい足りない。私のいい足りない部分は、漫画を読んで確かめてくださると嬉しいな、なんて思います。だって、ネタバレは避けたいし、けどいいたいことはたくさんあるし。そう、今回は、一番伝えたかったことに触れていません。

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