2007年4月11日水曜日

よりみちドロップ — かずといずみ画集

 この人の描く絵が好きだといっていたかずといずみさんの画集が発売されまして、わあ、なにこの大逆転ホームラン。ええと、ちょっと以前の文章を引用してみましょうか。

私は[中略]いずみという人の描く絵が好きで、例えばそれは、『ちょこパフェ』のように頭身の比率の小さいものだけでなく、サイトで見ることのできるような絵、 — これが本当に素敵。一枚の絵の中に実によく雰囲気が込められていて、空気の色合いや温度、広がり、そしてにおいまでが届きそうに思うのです。

そう、私が好きだといったかずといずみの絵の世界が一冊にぎゅうっと凝縮されているんだと、それだけでもう嬉しくて仕方がなくなるじゃないですか。だから、買いにいきまして、買ってきまして、ただここに私の駄目なところがあるのですが、発売日昨日だと思っていたら、先月末だったんですね(昨日というのは奥付の出版日です!)。ああ、残念。二週を知らず待つことになってしまい、なんと残念なことであったろうと思います。

さて、かずといずみとくれば触れておかなければならないのが、同人誌『くろいろ』の表紙でしょう。私は、インターネット上、掲示板に無断転載されたこの絵を見て、素敵な絵だなあと思って、ええと画集でいえば86ページ。黒い髪、黒い瞳、黒いセーラーに黒いかばんにそして黒タイツ。雪の降る中、傘を手にして立つショートカットの女の子の姿が実に印象的、いい絵だなあ思っていたら、それが私の買って楽しみに読んでいた『まんがタイム』系列誌連載の漫画『ちょこパフェ』のいずみさんの絵とわかって、その時には大いに驚いたものでした。というのは、『ちょこパフェ』は少し頭身低めのデフォルメした絵柄、対して『くろいろ』は頭身高目の絵柄、雰囲気は結構違っていると感じられて、けれど通底するものはありますね。絵一枚でぐっと人を引きつける、そういう強いアトラクションを感じさせる魅力的な画風の人であると思ったのです。

この人の開設されているサイトの存在を知って、過去絵をざーっと見ていって、『くろいろ』発見して、そして他の絵の素敵なことにも驚かされて、もうすっかり参ってしまったんですが、にしてもほんといい絵ですよ。発色はシック、ポップさよりも穏やかさを感じさせる絵、水彩を思わせるタッチがやさしく触れてくるそんな感じであるのに、私を引きつけてやまないというのは、絵の向こうに広がるストーリー、流れる時間を一コマ切り取ったように感じられる、そこであるんだと思うんです。私の好きなこの人の絵、画集81ページの『あっ! 見つかった!』、96ページの『近くて、遠くて。』、なんてのはそうした典型であると思うのですが、素敵と感じる絵は他にもいろいろあって、74ページ『たそがれ』なんて何度見てもドキドキするし、67ページ『お気に入りの場所』もなんか吸い込まれそうな感じで、ああ、もう全部のイラストにコメントつけたいぐらいだが、それはさすがに自分でも引くのでやめときます。

以前ジュンク堂書店に『サンデーGX』を見て、それがかずといずみの描く表紙、2005年2月号(20ページ)の絵ですね。これを見たとき、私は『サンデーGX』を本気で購読しようかどうか迷って、けれどそうしたらきっと過去の表紙を手にできないことに悔しさを思うだろうからあえてやめた。けれど、あの時の思いを今こうして画集によってすくい取ることができたと思って、そして今まで見たことのないような絵もたくさん! ああ、嬉しい。本当に嬉しい。見る用にもう一冊買ってもいいかな、なんて思ったのですが、さすがにそれは私自身引くのでやめときます。

他にも読んだ人のみならず私自身でさえも引きそうな感想はたくさんあるのですが、そのへんはやばいのでこの辺でとどめておきたいと思います。けど、最後に一言。私がこの人の絵にひかれるのって、この人の好きのポイントと私の好きのポイントがかなりかぶっているからと、そんな理由ですねきっと。詳しくは画集(主に『コンプティーク』連載物とインタビュー)を見ていただくとして、とりあえずひとつだけ引用しておこう。むっちりした足よりも、か細い足が好きです…。

はい、私もです。

このコメント、この人の絵のポイントになる要素が隠されていると思うのですが、身体を表現するに際し抑制が利いているという、そういう感じがいいんだと思うのです。黒タイツに関してのコメント、全部見せたらつまらないも同じことをいっているんだと思う。普段抑制され、隠蔽されている身体というものが、稀にふとあらわれるから、見ている私はなんかドキーッとしてしまって、直視するのに耐ええないほどに心がかき乱されてしまう。それは例えば『くろいろ』や『あっ! 見つかった!』においてもそうなんです。身体こそは隠蔽されているけれど、吐く息に感じる寒さや買い食いする口元に身体の確かに存在することをこそっと告げられて、そしてその身体感が周囲の空気、世界の広がりを色づけてくれる。ああ、本当にいい絵だ。もちろん、これは例にあげた二枚だけの話ではなくて、この人の描く絵に共通する話と理解していただけるとありがたいです。だって、しっかりと身体がアピールされているような絵もありますからね、そうなんですよ、私が思わず目をそらしてしまいそうになるというのはそういう絵なんですよ。ほんと、ドキドキする。瞬間目をそらさなきゃと思うのに視線を外すこともまたできず、ドキドキしっぱなし。このときめく感じは、なんなんだろう。いや、ほんと、この人の描く絵が好きなんです。この感覚は、萌えなんていう生易しいものではありませんよ。

引用

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