書店によったら谷川史子の新刊が平積みになっていて、これは買わなくっちゃだわ! なにはなくとも私は谷川史子の漫画は買うのです。その絵も、お話も、雰囲気も、そしてそれらの向こうにあるなにもかもが私は好きで、だから出ているとあらば買わないではおられない。私にはそういう漫画家は幾人か数えることができますが、なかでも谷川史子は特別な位置にあるといってよいかと思います。
私が谷川史子の漫画に出会ったのは、購読していた『りぼん』連載の『くじら日和』を読んで、その世界の空気に参ってしまったからで、りぼんっ子でなくなった今でも大切な漫画、大切なお話として記憶にとどめています。もちろん単行本は全部そろえているし、そしてそれぞれのお話が持つ独特の空気に心を揺り動かされて、そうですね、やっぱり『花と惑星』も私の心を揺り動かして、しんみりとあたたかな涙を流させる、そういう切なさと仕合せのないまぜになったような空気を持っていたのでした。
『花と惑星』の物語は、それぞれ花にまつわる名前を持ったヒロインが、その恋心を確かめたり、女の友情に結束を深めてみたりという短編集でありまして、しかし恋模様を軸に話を展開する、そのナイーブさよ、切なさよ。私は谷川史子の漫画は切ないであると思う。ヒロインはけなげに恋に向かおうとして、恋の前に揺れ動いて、その弱さ、はかなさがすごく胸に迫ってきて、けど切ないばかり悲しいばかりでないのが谷川史子の持ち味だと思います。
弱くありつつどこかに強さも抱えていて、常にうまくいくとは限らない世界に自分の足でしっかり立って、空を見上げるような健やかさに満ちている。その健やかさは、きっとクライマックスにおいてよく発揮されて、『花と惑星』ではとりわけ『part 3. 百合と芍薬』がそうでした。part 1から綿々と続いてきた流れをひとまとめにして、きっと私たちは明日には元気に笑うのだろうということを予感させる渾身の見開きに、私は思わず涙ぐんだですよ。そして私は、このヒロインたちが、あるいはヒロインたちに自分を映してみようと思うすべての人たちが、そのように明日を迎えることができればよいと、そんな思いに溢れたのでした。
『花と惑星』の次に収録された『春の蕾』は、その明日をまっすぐ見られるようになれるまでの物語が、『花と惑星』のヒロインひとりを特にクローズアップして描かれて、これもまたよい話だったと思います。人は迷って、けどその迷った先にきっとよりよい未来を見つけ出せるなら、迷いは無駄ではないかも知れない。そのように思える、やはりこれも素敵な作品でありました。
- 谷川史子『花と惑星』(りぼんマスコットコミックス・クッキー) 東京:集英社,2006年。
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