第1巻が売れに売れて話題になったコミック『こどものじかん』の2巻が発売されたものですから、行きつけのグランドビル30階にいったのですが、どうしたものでしょうね、今日はもう本当にこれくらいしか買うものがなくて、でも『こじか』一冊持ってレジにいったら、あたかもこれ目当てで30階までのぼってきたみたいで嫌じゃないですか(いや、実際その通りなんですけど)。ロリコンとでも勘違いされたらことだから、ここはバランスをとるために普通の漫画も買っておきたい。というような訳で、以前から目をつけていた『窮鼠はチーズの夢を見る』を買ったのでした。これ、よっぽどの一押しなのかわかりませんが、平積み台のさらにその上に、表紙が見えるよう立てて陳列してあって、そしてその表紙の雰囲気のあまりのよさに、これはと思っていたんです。ただ、以前は予算の都合上買えなかった。けど今回は余裕があったから、『こじか』と一緒に買っておこうと思ったのでした。
そしたら、大変よかったです。しかし、なんといったらいいんでしょう。かなりの嫌展開ですよね。ノンケで女関係にだらしない主人公のもとに実はゲイだった後輩があらわれたと思ったら、浮気の証拠をネタにゆすって関係を迫って……、うわあ、男に迫られて嫌がっている主人公の、けれどあらがえないというシチュエーション。さ、最高です。
けど、ここまでならよくある話で、特筆すべきところは少なかろうと思います。つまり、この漫画はさらに先に進むんですね。私、読みはじめたときは短編集だと思っていたから、思ったより進まなかった(もう本当に全然進まなかったさ)第一話に不完全燃焼的がっかり感を味わったのですが、ところが第二話を見れば続いているじゃありませんか。やった。私は心の中で思ったね。
この手の漫画は大抵そうなのですが実に描写が丁寧で、優柔不断な主人公が男相手に翻弄されてことわりきれず、嫌悪しながらも突き放すこともまたできず、あろうことか嫉妬心まで抱いてしまうというそのプロセスの確かさ。ああ、これは素晴らしいわ。もしこれが、押し掛けてきたのが女なら(つまり普通のラブコメだったら)、男はその優柔不断をずるずる引き延ばしにして、おいしいシチュエーションをむさぼるばかりよね。男性向けはそれこそファンタジーだから、迫ってくるのが心底嫌いなタイプの女というのはまあなくって、そりゃかわいくて従順で好きなタイプが押し掛けてきたらこの世は天国よな。はいはい、もうくっつきゃいいじゃん、どうせくっつくんでしょ、といいたくなるよな据膳食わぬは的シチュエーション。そういうのには、げんなりなんです。
男性向けは単純で、私には物足りない。その点、この漫画は非常によかった。近づいては離れ、離れれば求め、そして知らない間に深く踏み込んでいって、しかしその自分が深みにはまりつつあることを意識したくない。このせめぎあいがいいじゃありませんか。しかも、こういうこと言葉で説明するのは楽ですが、この作者は漫画という表現で丁寧に描いていって、その説得力は並大抵ではありません。主人公が同性の後輩にはまっていくプロセスが本当に自然に積み重ねられるよう進行していって、読んでる私からしても、ふたりを応援したくなるのは至極当然でした。いや、本当に、誰もがふたりを応援したくなるに違いないんですから。
ちょっと余談。主人公をとりあう後輩と元彼女の口舌での争いは、いやあ、女の嫌なところが出ててよいわ。よくよく観察しながら読んでみるとですよ、実際にもある駆け引き、戦略みたいなんがあちこちに見いだされて、すごく面白かった。私は男だから、そういう策略にはめられる側なんですが、こういうのを読みつけていると、楽屋裏が見えてちょっと面白い。それ以上になんだかぞっとするよねー、なんて思います。
他にも見どころはたくさんあるんですが、例えば第一話のちょっとしたできごとが最終話に効いてくるところとか、小道具(特に鏡)の使い方がうまいとか、それで最後に鏡が再び戻ってきて、ああやっぱりうまい。
あんまりしゃべりすぎるとこれから読む人に悪いので、ここらへんにしときたいと思います。
- 水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』(ジュディーコミックス ) 東京:小学館クリエイティブ,2006年。
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