獅子は我が子を千尋の谷に蹴落す、という話なのでありましょうか。高校生になった夜桜ゆずりは、彼女が事業家である父から渡された一千万円。生活費、まさかあるいは小遣いなのか!? ちきしょう、これだから金持ちは! いや、そんな甘い話ではなかったんですね。それを十倍にするまで帰ってきてはいけないよ。いずれはゆずりはに会社を任せる日のくることを思ってでしょうか、愛娘に経営者マインドを持つよう突き放す、厳しくも苛烈な父の愛だったのですね。それに応えて娘ゆずりはは、起業を志して意気軒昂。なのはいいんですけど、ゆずりは、はたしてこの子に社長なんて務まるのだろうか? ゆずりはの、ドキドキハラハラ、細腕繁盛記のはじまりであります。
しかし、ゆずりは、かなりの危機でありますよ。資金こそ与えられはしたけれど、ノウハウなんてまるでなし。そもそも起業するったって、どうしたらよいものか、基本のキからわからないときています。頼るは友人、そして先輩。頼んで、おどして、泣きついて、なだめて、すかして、ようやっと協力をとりつけることに成功するのだけど、なにしろみんな高校生ですからね、なかなかスムーズにいかない。第一、肝心要のゆずりはが、どうにもこうにも頼りないときています。ほんと、ゆずりはの友人、薫じゃないけど、このままずっと家に帰れないんじゃないか。どころか、資金一千万円を使い果たして終わるんじゃないだろうか、なんて思ったんですね。ええ、はじまった当初は、ゆずりはが迷走して、どんどん窮地に追い込まれていく、そんな漫画じゃないだろうかって密かに怖れてたのですよ。
ところがですよ、しっかりちゃんと会社設立に向かって進んでいくんです。事業目的を定めて、販売計画たてて、拠点となるマンションを借りて、などなど、会社を起こすのに必要なこと、きっちり描いて、ゆずりはの会社が着実に現実のものになっていく、そうした過程が見えるのは、ほんと、連載で追っていた時などはちょっと興奮させられるものがありました。いきなりなんでもはできないから、できる範囲で、できることを頑張ろう。資金をアドバンテージとして、一歩一歩、ちょっと背伸びしつつも、起業の夢に向かっていく。ほんと、ゆずりはコーポレーション、まだまだこれからなんだけれど、これからどういう風に育っていくのだろう。そうそう簡単には事は運ばないだろう。そう思う気持ちと、そうした予想をどう裏切ってくれるのか、そうした期待が私の中でぶつかりあって忙しい。ええ、気持ちは、がんばれゆずりは、その一心であるのです。
この漫画が面白いのは、会社とともにゆずりはたちが育っていく、そうした描写もあってのことなのですが、やっぱりキャラクターの魅力も大きいのですね。あかんたれで、ちょっぴりのんきなゆずりはを筆頭に、天然で天然だからなのか失礼な言動が光る彩音。いや、ほんと、彩音、めちゃくちゃ面白いよ。素直じゃないものの、なんだかんだで親身になってくれてる薫もすごくいい子で、そして亜紀乃先輩、この人がいないとどうにもこうにも運ばなかったっていうくらいに重要なポジションにいるのに、なんだかいろいろ残念で、ええ、みんなそれぞれにどこかちょっとずつあかん子なんです。けど、それが皆の魅力となっている。読んでいる私の気持ちを、ぐっとひっかけて、持っていってしまう。そんな子たちなもんだから、そりゃもう応援したくなるってわけですよ。ええ、ゆずりはコーポレーション、その先行き、おおいに期待してる。大きく育って、驚かせて欲しい、そう思っているのでありますよ。
- しんと『ゆずりはコーポレーション』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2014年。
- 以下続刊
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