2012年3月14日水曜日

天国のススメ!

 『天国のススメ!』、表紙にはすごくキュートな和装のお嬢さん。この人、主人公じゃありません。主人公は、この人のお孫さん。霊感少年の羽鳥太一くんです。小さいころからいろいろ見えてた。というわけで、お婆さまの小町さんも絶賛幽霊生活中。若い姿をしてるのは、可愛く見られたいという女心だっていうんですね。いや、実際、可愛いお婆さまです。見た目もそうなら、その性格も、お茶目でキュートで、なんと可愛い人だろう。ええ、この漫画、可愛い人がいっぱいで、読んでると心の奥にほのぼのとした暖かさが灯る、そうした感触があって、もうたまらないんですね。

暖かさは、その人たちの優しさのためもあるでしょう。本当に優しい人たち。困ってる人がいたら、人? いや、幽霊とか妖怪とか妖精とか、そりゃもういろいろですよね。困りごとが太一のもとに持ち込まれる。最初は嫌がったり当惑したりするものの、結局は助けてしまう。その過程がすごくいいんですね。なぜ助けを求めるにいたったか。彼らがなにを大切にしているのか。人の気持ちというものを、大切に大切に扱って、なおざりにしない。友達であろうとすること。自分の本分をまっとうしたいと思う気持ち。ささやかなできごとにさえ感動して、その感謝の気持ちを伝えたい。人も、モノも、人でないものたちも、皆が優しく、いじらしい。ああ、こうした気持ちを自分自身、どれだけ大切にできているか。時に傲慢で、感謝も感動も忘れがちな自分には、はっとさせられ、じんと沁みる、そんな漫画であるのですね。

しかし、それにしても素晴しいのは十子さんでありますよ。藤十子、お寺の娘。太一のことを狙っていて、挨拶からしてプロポーズといった具合。いえね、お寺の娘だってのに霊感皆無なもんだから、太一を婿入りさせて、その霊能をゲットだぜ! みたいな話だったはずなのに、いや、なんのなんの、この子、もう純粋に太一に恋してるんじゃん。太一の優しさに、気づかいに、もう痛々しいほど参ってしまっていて、ああ、なんて可愛らしい人なんだろう。美人だっていわれてるし、絵からもそれはわかるんだけど、全然それを鼻にかけないどころか、気どりだってない。真っ直ぐ正面から気持ちをぶつけて、けど太一からの働きかけには思いっきりうろたえてみせて、この純情さにはしみじみと感じいるところありますよ。ほんとその恋を応援したくなるお嬢さんです。

人情ものとしてのよさがある漫画で、恋愛ものの面白さもある漫画で、それはつきつめれば情や思いが描かれて、たいへんに豊かである、そういっていいと思うのです。その情を取り合つかう手の暖かさ、それが読み手である私の情に働きかけるものだから、読めば安らぎも心のうちに感じられて、ああよいなあ、そうした思いにいたるのです。

  • 宮成樂『天国のススメ!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2012年。
  • 以下続刊

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