2009年8月16日日曜日

レス・ポールの伝説

 おとつい注文した『レス・ポールの伝説』が届きました。ギタリスト、レス・ポールを扱ったドキュメンタリー映画。今月13日に亡くなったのを受けての購入ですが、もうこの泥縄感、いやんなりますね。映画の存在は知っていたのだけど、見にいかなかった。DVDが出てることは知らなかった。大量に押し寄せる情報の中、流れていくにまかせて、すくいあげることのなかった。その不見識ったら! といった感じでありますが、いや、しかし実際のところ、思った以上のショックを受けたものですから、これ絶対、ギターの名前のせいだろうなあ。レスポールという名を口するたびに、今もニューヨークで演奏しているというギタリストのことを思い出していた。それが、結果的に想像以上に身近と感じさせることとなったのだろうと思います。

映画は、キース・リチャーズとのセッションから始まって、わお、なんだこの贅沢なステージは。いやがうえにも期待感の高まる、そんなでだしでありますが、その後もすごい出演者の数々。なんだ、えらいギターうまいな、このおっちゃん、と思ったらトミー・エマニュエルだったり、レス・ポールのサウンドを熱っぽく語ってるのがリチャード・カーペンター(カーペンターズの兄さんの方)だったり、わお、すごいな。他にもポール・マッカートニーやジェフ・ベック、B. B. キングなんかも出るものな。けれど、こうしたレス・ポールの功績を語る、その面々が凄いから凄いわけじゃないというのは、映画を見ていけばわかることでありまして、特にミュージシャンとしての彼の足跡は私には知らないことばかりで、ほんと、スリリングでありました。いや、ジャンゴ・ラインハルトと親交があったとか、レス・ポールのギターはジャンゴの影響を受けているとか、そういう話は知らなかったもの。で、レス・ポールの語るジャンゴのギターについての感想とか、最高だった。みんな、こうして、影響を受け、与えながら、今までやってきたのだなあ。そういうことがわかって、本当に面白かったのでした。

レス・ポールの功績は、ソリッドギターを作ったひとりであるということもありますが、多重録音の創始者であるということ、それも無視できないほどに大きいじゃないか。そう思わせる映画でもありました。これまでにない音、表現を求めていた人だった。映画におけるテーマは、実にその先駆者、開拓者としてのレス・ポールであったのですね。映画の原題はLes Paul Chasing Sound! あくまでもサウンドを追い求める、なんですね。結果、それが多重録音や新しいギターに結晶した。誰も聴いたことのない、アメージングなレコードを作り出し、ヒットさせた。トミー・エマニュエルの説明が最高でした。ギターを手にパラパラとフレーズを再現したかと思うと、どんどんポジションをあげていってみせて、指板を超えたところにまでいって、犬しか聴こえない領域だなんていって笑う。衝撃的だったのだと思うんです。今では普通に聴こえるサウンドだが、当時はそうではなかった。どうやって録音しているのか、誰もわからなかった。それはそれは刺激的で、それこそ皆、目を丸くしたのでしょう。そうしたエピソードの数々は、この映画を見るものの気持ちも高揚させて、本当にすごい人だったのだな。そう思わないではおられなくなるのですね。

しかし、この人のよいところは、新しいなにかを探す、その姿勢もそうだと思うのですが、ポジティブなところ、そこでもあるのだと思うのですね。自分の場を求めて、どんどんチャレンジしていく。ひっこんでいない。車の事故に関してもそう。これで実際死にかけたというのですが、内臓破裂とかでしたっけ、それから腕を切り落とそうかという直前までいって、ぎりぎりで助けられたとか。こうした酷い経験であるのに、彼は、この事故を特権と思うようになっただなんていってるんですね。やり直しのチャンスだった、事故がなかったらできなかった。運がいいだろう? って。実際のところ、当時はどうだったのかわからないけれど、あとから振り返るからこその話かも知れないわけで、けれどこの後に多重録音の試みがスタートしてるんですよね。状況に打ちひしがれるのではなく、どんなときでも目の前にチャンスがきたら掴む、その才覚にあふれた人だったのだなっていうのが、本当によくわかりました。

この映画は、音楽のエンジニアリング、ギターの歴史、そうしたものに興味のある人にとっては最高に面白いものであると思います。しかし、ただ音楽が好きという人にもきっと面白い。音楽に打ち込んで、チャレンジを繰り返した彼の前向きな姿勢は、音楽をことさら好きというわけでもない人、普通の人にとっても刺激的であるでしょう。バックに流される音楽は気持ちを浮き立たせて、熱っぽく語る人たちの言葉、表情、そうした全てが興味を掻き立てて、すごくハッピーな気分になれるのですから。

映画の作られたのは、レス・ポールの最晩年。90歳の誕生祝賀会から撮影ははじめられたそうです。ほんの4年前のこと。アメリカでの公開は一昨年、日本は去年。懐かしむには新しすぎる。そんな気にさえさせられます。もう、この地上に彼がいないだなんて、嘘みたいです。

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