『表色89X系』が出た! アレルーヤ! そして、確認。まずはタイトルです。これ、なんて読むんだろう。ひょうしょくはちきゅうえっくすけいでした。おおう、なんてこった。ずっとおもていろだと思ってたよ。というわけで、これから意識せずともひょうしょくと読めるよう、矯正することにします。さて、『表色89X系』。これがですね、私好みの要素が散見される、そんな漫画でありまして、もう連載時からどうにもこうにも気になって、それが今単行本になったものですから、嬉しくてしかたないんですよ。いや、ヒロインが眼鏡とか関係ないよ? 扉絵がプリンセスとか、巻頭がメイドとか、とらのあなのおまけがネクタイ、ベストにベレー帽とか、もう、全然関係ないよ? 基本的にフェミニンな娘さん、でもちょっと凛々しい表情見せたりもする、そんなことも全然関係ないですよ? いや、本当。全然関係ないですよ。
しかし、この時に凛々しく、時に面倒見のよいヒロイン、松葉葵でありますが、第1話でいきなり留年を確定させるとかね、その理由も本当にどうしようもないもので、この人、大丈夫なのかと心配させる、そんな駄目なヒロインであるのですが、これだけやっても人物紹介では目立たない
みたいなこと書かれちゃって、ええーっ!? 目立たないですって? 私、この漫画が始まって以来、ヒロインに釘付けなんですが。ヒロインしか目に入ってこないような有り様なんですが!?
馬鹿なこといってないで、真面目にいきましょう。
私の好きな要素っていってましたね。これ、漫画の本質にはあまり関係しないのですが、なにかといいますと、男性陣のやっているあれ。西洋甲冑着てうんぬんというあれなんですよ。私、以前ちょっと近代兵器登場以前の用兵とかを調べていたことがあるんですが、まさかその果てに中世愛好家のグループと出会うだなんて思っていなくって、驚いたことがあるんですね。甲冑を身につけて、剣戟をするっていうのはまあ想像の範疇でしたけど、それ以上のこと、ソサエティメンバー全員で中世のお祭りや生活風俗を再現してみるとか、うわー、これ面白そう! って思って、記憶に残ったのでした。ブックマークしてなかったから、いいサイトを紹介できないのですけど、日本ではアヴァロンっていうグループがあって、その活動内容にはしびれますね。ええ、ええ、あるんですよ。衣装や甲冑の製作 ダンスや料理なんかもする
人たちは実在するのです。けど、よくもこうしたマイナーな趣味をピックアップされたものだ。でも、こうした漫画を読もうという人の中には、少なからずアヴァロンのようなグループを知っている、それどころか関わってるっていう人もあったりするのかも知れない。そうした人は、きっとあの人たち見て、にやりとしたんだろうな。ええ、にやりとしますよ。
この漫画のタイトルの、表色もそうですけど、89X系、これもなんだか謎で、いったいどういう意味なんだろうって思ってたら、どうやら第2話に出てきた芸術の分類がそうっぽい。私は、学生のころ、こういうの勉強してたんだけど、忘れちゃいました。興味ないからなんですけど、この漫画によれば、フランスではバンド・デシネを第9芸術に置くらしい。じゃあ、第10芸術は「萌え」でいいんじゃないっていう、その第10、ローマ数字ならXですか? つまりは、柴田燕ウって人の提示する萌え、そういうことなのかなって思って、けれどそんなこと関係なしに広がっていく個性的な面々の関係、それが楽しくって、心地よくなっていって、やっぱり第何とかいうの、どうでもよくなってしまいました。
楽しい、心地よいって、なにがそうなのかっていうと、誰もが非常識で、けれど同時に常識も内包しているところなのかなあ。ヒロインなんかは典型的で、異常な方向音痴、それが原因で進級できなかったくらい。けれど、家事はしっかりできるし、価値判断もちゃんとしてる。その両極性がいいな。しっかりした人の魅力と、駄目な人の魅力を兼ね備えているって思えて、まあ、松葉葵を取り巻く面々は、それどころじゃなく非常識的な要素が強いんですけどね。多分そのせいで、ヒロインは場を常識に引き戻す役目を担うほかなくなって、ともなって目立たなくなっていったんだろうなって思うんです。だって、女の子大好き美少女と女装美少年の双子とか、幼馴染みの女の子に屈折した愛情を向ける女の子とかね、ほんと、ろくでもないって感じです。でも、そのろくでもないって思える人たちも、どこかに常識的な感覚を持っているような感触があって、だから無軌道に非常識を撒き散らかすのではなくて、いいところを突いてくる。ああ、わかってやってるだろ、それ、っていう感じがあるんですね。その常識非常識を繋ぐバランス感は、登場人物というより作者のものかも知れませんけど、けれど常識に引き戻す役目の人、おおむね葵ですけれど、彼女が機能しなくなったとしても、別の誰かがちゃんと引き継げる。それで、そのキャラクターのらしさが変質するようなことはない。その皆がうまく機能している感がまたよいと思っているのです。
投げたボールを、ちゃんと拾ってくれる相手がいるってわかっているから、思い切った投球をしようって思える。その思い切りのよさが、個々の魅力をいっぱいに発揮させる。そうした、個の強さと、個の強さを受けて支えてひとりにしない皆の繋りの確かさが、バランスよく引き合っていると感じられるから、私はこの漫画が好きだなって思うのかも知れません。だから、葵は目立たないなんて思う必要ないんです。いわば彼女はキャッチャーとして、場を成立させよく機能させる、そんなポジションにあるのですから。葵さん、あなたこそが主人公だと、声を大にしていいます次第です。
- 柴田燕ウ『表色89X系 — GIRLS COLOR CHART』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
引用
- 柴田燕ウ『表色89X系 — GIRLS COLOR CHART』第1巻 (東京:芳文社,2009年),2頁。
- 同前,71頁。
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