橘紫夕の『となりのなにげさん』は、帯にいわく、ゲスト掲載時から問い合わせが殺到した
とのことなのですが、それは多分に本当なんでしょうね。問い合わせの内容というのがどんなだったか、それはわかりませんけれど、でも確かに鮮烈な印象を残して、なんだ、えらく面白いなあと思ったことを覚えています。シンプルなお助けキャラクター、なにげさんが、困った人のもとにあらわれては手助けして帰っていく。基本この繰り返しであるのですが、妖怪じみているというか、超人、超常現象的な彼女にしても決して完璧ではないということが、結構ひんぱんに描かれまして、しかしその失敗してしまったりするところが、親しみやすさを一層強めるのですね。いい感じに力が抜けていて、テンポよく読めて、楽しい。その上、登場人物がみな可愛い。それが、『となりのなにげさん』という漫画です。
『なにげさん』の面白いのは、誰もが困ったと思う、そんなシチュエーションが描かれて、そこになにげさん登場、さっと助けの手を差し延べてくれるのですが、これがただ助けるだけじゃないってところなのだと思っています。プラスαがある。ただ助けるだけじゃなくて、そこにちょっとしたひねりがあるから、そうかこうきたかと意外性を楽しむことができる。あるいは、その意外性が裏目に出てしまうこともあって、なんでもうまくいくってわけじゃないんだな、またそれが面白い。この、意外性というくすぐりがうまく効いているから、下手をすれば同一のパターンに陥ってしまいかねない、そんな構造を持った漫画を新鮮味あふれるものにしていのですね。
意外性、ひねりを効かせる際に、作者の持ち味といってもいいのかも知れません、ちょっとシニカル、あるいはリアリスト、そんな感覚が入ってくるのがとてもよい。そんな風に思っています。人助けをするなにげさん。彼女の資金源ってどうなってるのとか、ちょっと突っ込んで考えれば、確かに疑問なんだけれど、普通そこまで考えない。だって、なにげに瞬間移動してるようななにげさんですよ。けれど、こうしてネタとして展開されれば、あー、そうだよねー、虚を突かれて、しかもそこにあった解が気の効いたもので、上手いよね、素直にそう思って、いや本当に面白いと思います。
徹頭徹尾、謎の存在であり続けているなにげさんですが、本当に彼女はなにものなのか。1巻の時点では、完全に謎のままで、まあ連載を追ってても謎ではあるんですが、その正体不明性がよい感じです。持っている体操服からすれば、かなり昔からいる人みたい。彼女はひとり、生徒たちの成長を見守り、見送り、そして新入生を迎えます。そうしたサイクルの中に、今という時間があって、生徒たちとの関係を深めていく。その描写はちょっとほろりとさせるものがあって、またこうした描写も意外であると思ったものでした。永遠の現在を描いているように見えて、実はそうではなかったものですから。でも、去る人があり、来る人があり。今メインといってもいい登場人物もいつか卒業する日がくるのだとしたら、それはそれは感慨深いものになるかも知れませんね。特に、私の気にいっている生徒会長。なにげさんの手を借りないどころか、逆に彼女を助けてしまっている、そんな彼女の卒業は、ちょっとしたドラマティックなものになるんじゃないかな、なんて思っています。
- 橘紫夕『となりのなにげさん』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
引用
- 橘紫夕『となりのなにげさん』第1巻 (東京:芳文社,2009年),帯。
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