2008年9月30日火曜日

かみさまのいうとおり!

   ひろなex.』が、イノセンスの影に仕掛けられた色気に惑う漫画だとすれば、『かみさまのいうとおり!』は怒濤の下ネタ連呼が独特の推進力をもたらす、そんな漫画でありまして、なんだかびっくりです。最初の頃は、それこそ素朴なネタ、誰もが思いつきそうな駄洒落レベルのネタがアクセント程度にさしはさまれる程度だったのに、今となればものすごい深化を遂げて、テクニカルだは、密度は濃いは。一読程度では、気付かないことさえあるくらいです。ああ、まりあがね、鼻血出してるコマを見て気付くんですよ。あ、いま、下ネタがあったんだ! って。ほんと、あれだけのものを考えつく作者の発想力には恐れ入ります。

しかし、作者も後書きにいう、シモネタ漫画になるとも思ってなかったよね — …。まあ、実際そうなんでしょうね。始まった当初は、宗教ネタの方が多かったのが、だんだん下ネタにシフトしていって、今や下ネタのない『かみさまのいうとおり!』なんて考えられない、と思うくらいに、下ネタは重要な要素となっています。この漫画の面白さには、まりあの空耳、聞き違いから鼻血のコンボが欠かせないのかも。とはいうんですが、下ネタといっても、それが下品にならないのはたいしたものだと思います。まあ、品がいいとはさすがにいえないでしょうけど、でもただエロネタ連呼するだけの展開は避けられて、あくまでも通常の会話中に現れる言葉、まあたまに苦しかったり、無理矢理っぽかったり、あからさまだったり、山伏がわざといってたりするんですが、でも基本はそうじゃない。エロを感じさせない、普通の台詞回しに、まりあの鼻血へのキーをしこむ。そのクオリティは上がる一方で、いやあ、あれは本当にすごい。ほら、ええと、5巻には収録されてないから6巻か。よくあんなの思いつくなあ。やっぱり恐れ入るのであります。

でも、エロばかりじゃない、下ネタばかりじゃない。そうしたのりから離れたところで笑わせられる、そんなネタも当然あって、やっぱりこの人はうまいよなあ、そう思います。期待させて外す、思わせぶりにふって外す、その振り方がうまいんだろう、そんな風に思っていて、例えばまりあの母の真実とか、信用されている神父さんとか、あれは笑わずにはおられんかったです。女の子四人がわいわいやっている、いや、今は七人か、三人は基本別行動だけど、その華やかなる様も魅力だけど、ただ可愛いだけじゃない、華やかなだけじゃない、そこにはやっぱり、笑いや面白さの追求があって、多様な要素がうまくバランスをとっていると感じられます。やっぱりこれはうまいっていうことかな。あるいは、よほどの練り上げ — 、試行錯誤や検討があるんだろうなあ。表にそれと感じさせることはないのですけれども。

そしてうまいのは、感情の流れを作るところ、です。それと気付かないうちに、ひとつの流れが作られている。それと気付かないうちに、少しずつ膨らまされている。それが、最後にそっと手渡されるような感触があって、壊れないように、そっと、けれど、しっかりと手渡される。ああ、いい話じゃないか、そう思わせてくれることがままあって、やっぱりこれもうまいのだろうと思います。ハワイ編の中盤なんか、よかったもの。それはもしかしたらできすぎなのかも知れないけれど、けれどそのよくできた話に乗ろうと思えるのは、そこにあざとさや作為なんかではない、感情の受け渡しがあるからだと思います。こんなだったらいいという、そういう気持ちがあるからだと思って、だから私は、その時々、その流れに身を委ねようとするのだと思います。

湖西晶は確かにうまい漫画家だとは思います。見せる場面は、うまく見せますしね。けど、ただうまいだけの人じゃないと思っています。うまさがあって、うまさをまとめるうまさがあって、そしてうまさによらないストレートな気持ちの発露がある。これらがこの人の漫画を決定づけるものであると思っています。

引用

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