2008年10月1日水曜日

コドモダマシ ― ほろ苦教育劇場

 パオロ・マッツァリーノの新刊がたぶん発売中のはずだそうですので、仕事帰りにちょいと紀伊国屋書店に寄って、買ってきました。ビッグマン側の入り口すぐに平積みされていて、私はいつも茶屋町口側から入店するから、ちょっと歩きました。というか、まるっきり対角だな。ともあれ、買ってきた新刊、『コドモダマシ』というタイトルなのですが、とりあえず一気に読み終えました。なにをするにも取り掛かるのが遅く、読む速度も遅い私にとって、買った翌日に読み終えるというのは快挙でありますが、それはこの本がずいぶんと読みやすくできていたことも関係しています。

この本の読みやすさは、子供が問うて父が答えるという、対話形式あるいはコントのスタイルをとっている、そこにあると思います。ページ一面を埋め尽くす文字文字文字、という感じはなくて、大きめの文字、会話による、ゆったりと余裕をもって進行していくストーリー。ひとつひとつのトピックは四五ページ程度、コンパクトにまとめられているから、これも読みやすさを後押しして、活字慣れしていない人でも楽に読める、けど反面、がっつりと文字を読みたいんだというような人には物足りないかも知れない。私は、ちょっと物足りなかった。食い足りないっていったほうがいいかも知れませんが、はじめてこの人の著作を読んだ時の、あの目がくらむような感覚。わお、自分が今まで疑問に思ってたことを、こんなにも鮮やかにやってくれる人がいるのか。密度は高く、そして衝撃も大きかった。こういった感覚は、『コドモダマシ』にはありません。あるのは、軽妙な会話のなかにさしはさまれる統計やら資料やらの綾であります。

子供が父になぜと問う。

「アメリカのテロで、高層ビルが危険だとみんなわかってるのに、なんでお父さんの会社は高層ビルに引っ越したの?」

こういう、答えにくいことを聞かれる、そうした経験は誰しもあると思うのですが、さてそういう時にどう答えたものか。この本に出てくるお父さんはというと、統計、資料を駆使して答えるのですね。まあマッツァリーノは統計芸の人ですから当然そういった展開になるわけですが、しかしそれって結構な屁理屈だよな、なんてのもあって、資料統計を駆使した屁理屈、しびれます。あるいはマッツァリーノお得意のシニカルだったり、斜に構えたものの見方があちこちに伺われて、やっぱりこの人はいいなと思って、だって私はこの人に、自分とは違う、また一般にいわれているものとも違う、独自の視点を期待しているんです。そうした、ああマッツァリーノらしいな、と思える言説に出会うたびに、もっと、もっとやってくれと思う。グラフでも表でもいいから、データをバンバン出して畳みかけてくれと思う。この本には、その畳み掛けのフェイズがないから、ちょっと物足りないんですね。

畳み掛けがないかわりに、ブックガイドがついてきます。その名も理論派お父さんのためのブックガイド。対象は本だけでなくWebサイトなども含まれていて、そしてそれぞれにマッツァリーノのコメントがついてきます。これ見て思うんですが、本当にこの人の読書範囲は広いなあ。新書から専門書から、本当に幅広い。『カモメ識別ハンドブック』とか『焚き火大全』とか、いったいどういういきさつでその本に出会ったのか、また読もうと思ったのか、それを私は問いたい。まあ、私も人のこといえない変な本読んでたりしますけど、でもこの人の幅広さにはかなわない、素直にそう思われて、自分もいろいろ読もう、そんな気分になっています。とりあえずこのブックガイドから何冊かでも読めるかな。

なお、このブックガイドに取り上げられた中で読んだことある本は一冊だけ、『美術館とは何か』だけでした。これは本当にいい本です。また読みたいな。

さて、『コドモダマシ』からもう一節、引用しておきたいと思います。それは、これだ!

こどものころはみんな感想文なんか書くのいやがってるんです。そのクセ、オトナになると、頼まれもしないのにブログで本や映画の感想ばっかり書きたがるんだから、わからない、わからないよブロガーの気持ち。

ほんと、私もなんでかわかりません。

引用

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