『境界恋愛少年少女』は、『コミックエール』に連載された漫画。繊細な筆致で描かれるボーイ・ミーツ・ガールの物語に、私はすっかり見入られてしまって、しかしなにが私をそれほどに捉えたというのでしょうか。それは、悲しさを心いっぱいにたたえた少女、ウィンセリアの美しさ、儚さと、そして主人公の少年、ハルヒコの一途さ、健気さの出会うその局面に見出されるもののためであった、と思っています。見出されるものは、幼い恋愛のほほ笑ましさがまずあって、そしてそこには呪いというちょっと痛みを覚えさせる設定があって、ですがその痛みもまた心地よかったのです。
ハルヒコの住むことになった屋敷には、触れることのできない少女が住んでいた。それは、もうひとつの世界に暮らすウィンセリア。魔術師の呪いのためにここと似た、しかし違う世界に幽閉されたウィンセリアとハルヒコが出会ったことから動き出すストーリー — 。
ほら、ちょっと疼くでしょう? でも、こうした設定が許される、あるいは求められているジャンルがあると私は思っていて、それは例えば『エール』が掬い上げようとしたもの、ある種の感傷といってもいいかも知れないものがそうであったと思うのです。少年と少女の、非日常における出会いが描かれる。そこには禁忌があり、差し向けられる悪意があり、救いを求める思いがあり、そして子供である自分の無力を嫌というほど感じつつも、なお少女のために前へ進むことをあきらめない、少年のまっすぐなまなざしがあって — 、それがなぜこんなにも私の心に深く突き刺さってくるのだろう。現実感は希薄で、描かれるストーリーは結末にいたるまで、彼彼女らの心、気持ち、思いのうちにひきこもるようであるというのに、しかしそれがこの物語を追う私の心に訴えてやみません。私が実はこうした直球のストーリー、わかりやすさを求めているのだとあらわにするほどに強烈に作用して、そうなんですね、私は結局はまっすぐな思いのあからさまに描かれる、リアリティやギミックよりも、情感のまっすぐに投げ込まれるような、そういうものを求めているのです。
『コミックエール』は隔月刊、それゆえにゆったりとしたペースで物語を追うことができましたが、こうして単行本にまとまると、想像以上に駆け足で、それはちょっともったいないと思うほどのはやさで終わってしまっていました。もう少し紙数があれば、もっと丁寧に表現されただろう伏線、盛り上げもあったように思うのですが、しかしそれがなされなかったのがただただ残念で、そう思うのはハルヒコとウィンセリアの物語にもっと長く触れていたかった、そっと繊細に、そしてより深まる心情にからめとられたかったと、そんな風に思うからなのでしょうね。描かれるのは、おとぎ話めいたボーイ・ミーツ・ガールのストーリー。悲しみをその心にたたえた美しい少女を助けようと奮闘する少年の物語。そしてそれは、かつて少年だった私が夢見る、仮構の物語の反映なのだろうと思います。
- 水谷悠珠,かえで透『境界恋愛少年少女』(まんがタイムKRコミックス エールシリーズ) 東京:芳文社,2008年。
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