この漫画が始まった時には、まさか後に結構好きになってしまうだなんて、想像だにしなかったものでした。『たまごなま』のヒロインは、小学五年生の女の子、こころ。不慮の事故で母は他界、そして父も……。といいたいところですが、なんと父は娘のパンツに、寄生なのか? 融合なのか? よくわからないのですが復活して、ええと取りついてる? とにかく全然意味わからないのですが、まあいるんです。娘のパンツの、その、お尻のところに、なぜか蛙の姿となって住んでいるんです。いやしかし、このぶっ飛んだ設定には瞬間判断力が停止してしまって、受け入れるとかどうとかいう以前の問題でしたよ。実際の話、困ったんだと思います。どう思っていいかに困ったのだと思います。そして、判断力が回復したその瞬間、拒否反応を示したのでした。
いや、だってよ、パンツに住んでる父ってどうかと思うわけですよ。掲載誌は『まんがタイムきららキャラット』。最近、妙にエロまじりになってきているような気のする『きらら』系列誌ですが、しかしそれにしても娘のパンツに父はないだろうって。しかも、この設定があるために、とにかくパンツが出る。思わずタンスをかじりましたよ。もういったいどうしたものだろうか、とりあえずアンケートはふつうに丸をつけておこう……。そう思ったものでした。
でも、評価ふつうがおもしろいに変化したのはいつからだったのでしょうね。パンツパンツといってきましたが、描かれるパンツは別にそれほど扇情的なものではない。なんといったらよいか、いわば少女漫画のりと受け取ったらいいんだと思うようになった。少女漫画の特にギャグものには、まれに私にはどうとも受け止めがたい設定、のり、描写が見られることがあって、これもそうした類いなのかも知れないと、そんな風に感じはじめてからは、パンツや父の設定は特に気にならなくなりました。むしろ、ヒロインこころと友人たちの関係、なぜかこころの父に執心する蛙好きのお嬢様滝澤さんや寡黙でシビアでちょっと変わり者の田嶋さん、幼なじみの男の子沼田君、そして長女アキナと三女ゆきこの加わる家族の風景。和気あいあいとした感情の交流するところ、そこに生じるほほ笑ましさが気に入りました。可愛さやおかしさや、楽しさが素直に感じ取れるようになれば、ヒロインを取り巻くほほ笑ましさに対照的な、シビア、シュール、ナンセンスな笑いもまた楽しめるようになって、この落差、コントラストがまたよかったと感じるところです。
私には、まずは慣れるだけの時間が必要な漫画でしたが、慣れてからは面白い、結構好きだなと思える、そんな漫画になりました。単行本になって、最初から読み直してみて、ああこういうところ苦手にしてたなと懐かしく思い出したりしながら、でもやっぱり面白いと感じて、魅力は絵の可愛さだけではないですね。変わり者たちの織り成すハイテンションギャグ、そんな中、心を穏やかにさせるヒロインこころの無闇な無垢さ。いや、穏やかになったか? ともかく、のりにすべてを委ねてしまえば、楽しさがじわじわとわいてくる。でも、それでも酒飲んで産卵というの、あれはやっぱりやめて正解だったかと思います。もしあれがあったら、私がこの漫画の楽しさに目覚めることはなかったかも知れません。だから本当によかったと思っています。この漫画の面白さに出会うことができてよかったと、本当にそう思っているのですよ。
- あぼしまこ『たまごなま』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
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