2008年9月4日木曜日

イチロー!

  イチロー!』、第3巻が出て、ああ、これは連載で読むよりも単行本で読んだほうがしっくりきますね。というのは、冒頭に収録の回がクーラー話。初出はというと11月号。おーまい。私ははっきり覚えています。ずいぶん寒くなったなと思っていたら、いきなりのクーラー回で、ええーっ、暖房と思って読んじゃってたよ。そんな具合に、季節感メチャクチャな漫画だったんですが、それが今夏も終わろうという時期に読むと、しっくりきますね。けどこの延々と夏を引き伸ばすかのごとき状況は、彼女らが一浪浪人生であるという前提がため。そのため、一話で一日、次回は翌日というようなことにもなって、なかなかの密度の濃さです。四コマ漫画では一巻分で一年が過ぎたりするのに、この漫画は違うのですね。このあたり、読み出のある漫画だなあと思わせる所以であります。

後書きにて作者いわく、季節にあわせたネタが使えなくてヒーコラでございます、とのこと。そういえば、四コマではありませんが、かつて季節を反転させて描いていた漫画家がいらっしゃいました。私はその漫画を単行本で読んだので、夏に冬、冬に夏の話を読むというミスマッチを楽しむことはなかったのですが、作者のおっしゃるには、それはそれは大変だったらしいです。実験的に、あるいは面白かろうと軽い気持ちでやってみたものの、季節を実感せずに描くというのは思いの外に厳しいことであったようです。そしてその苦労をこの作者も味わっていらっしゃるのでしょう。その季節ならではの、それこそ時事的なネタは使えないという縛りもありそうで、なおさら大変と思われますが、しかしそれは逆に、時間を経てから読んだ時の強さになりそうな気もします。

さて、第3巻でも新規登場人物がひとり。予備校の夏季講習にて出会った高校生。思い込み激しくて、一方的に敵視されて、けれどなんでか押し掛けてきたものだから、一緒に風呂入って、飯食って、寝て、仲よくなった、そういう感じです。でもってここに詩乃が嫉妬とともにからんでくるというのはお定まりのパターンで、新規の要素を導入しつつ、旧来からのパターンもからめて掬い上げて、こういうところはうまいなと思います。忘れかけられていた兄も、まあ存在はしていますよレベルで復活してきて、毎月、少しずつ動いていく話の中で、多方面に丁寧にネタを広げています。これもまた、実時間とリンクしていない強みでしょうね。

第3巻時点ではまだ夏が終わっておらず。第4巻にて沖縄旅行編を展開し、秋に入ろうというくらいのテンポでしょうか。自分はもう受験なんてはるか昔のこと、すっかり忘れてしまっていますが、推薦であるとかなら年内、11月ごろ? に試験がありましたよね、確か。だから受験生色、浪人生活の色合いは次巻くらいからだんだんに濃くなっていくのだろうと思われて、だから今展開している夏の話は、受験勉強本格展開前の日常や遊び、バイト、出会いなどなど、シビアにはなり切らない時期特有の楽しさを伝えているように思います。

まあ、シビアになり切れないからこそ、浪人は危険というのですが。

おそらく、この一年で浪人の話は終わり、そして漫画も完結といった流れでしょう。だから、今はこの脱線も含めた受験生日常を楽しんでいたいと思います。それに、浪人っていうのも、その時は回り道や足踏みに感じても、後から振り返ればたいしたことない、むしろいい経験だったと思えるもの、なんだと思います。楽しいばっかりじゃ駄目だけど、つらいばっかりでもない、そんな一年を眺めていられるのは、ちょっとした懐古も含んで、楽しいものなのだと思っています。けど、高校大学生くらいだと、また違った風に感じるのでしょうね。私にはもう過去すぎて、思い出せない話ですけどね。昭和か! 昭和だからか!

  • 未影『イチロー!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社.2007年。
  • 未影『イチロー!』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社.2007年。
  • 未影『イチロー!』第3巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社.2008年。
  • 以下続刊

引用

  • 未影『イチロー!』第3巻 (東京:芳文社.2008年),43頁。
  • 同前,118頁。

0 件のコメント: