四コマ漫画の買い出しに地上三十階書店にいった時のこと。目当ての本をピックアップして、それからなにか買いもらしはないかなとフロアを一周、一緒に面白そうな漫画も探しているのですね。そして、気になったのがこの漫画でした。タイトルは『アンニョン!』。韓国語? 韓国語ですね。もしかしたら韓国の漫画が日本語に訳されたものなのかなと思ったら、レーベルはアクションコミックス、Highの文字が『コミックハイ』に連載されていることを主張しています。表紙には制服のかわいい娘。しかし、それは強い印象を与えるというより、あんまりに素直すぎるという雰囲気の方が支配的で、だから私は最初は流そうかと思ったのでした。でも、そうはならなかった。帯の惹句が私を引き止めたのですね。
いったい、なにがそれほどに私の心を捉えたのか。となりの国の女子高生寮ライフ! クラスメートになりたいっ!
訴えたのは、となりの国、女子高生寮、そしてクラスメートになりたいっ、このみっつでした。って、ほぼ全部じゃん。
もともと異文化ものに興味を持っている私です。遠い文化に対しても、近い文化に対しても興味津々で、しかし考えてみれば韓国の学生生活とかなんにも知らないんですよね。受験が強烈に厳しいらしい話は知ってますけど、大学受験はそれこそ後半生を決定しかねないくらいに重要なイベントだから、受験当日には国あげて受験生を支援する態勢が築かれるそうですね。受験開始時間に間に合わない受験生を、パトカーで先導して間に合わせたり、特急を途中駅に停車させたり、親身すぎる対応にはほほ笑ましく思いつつも、学生さんも大変だなと同情します。またこうしたいい話もある反面、携帯電話はじめとしたあらゆる手段を講じてカンニングを支援する勢力もあるそうで、こういうビジネスがはびこる歪みよう。まさしく悲喜こもごもです。ああ、あと大学の寮でしたっけ、セクハラまがいというか、セクハラそのものの新入生歓迎イベントがあるとかも聞きました。韓国の女の人は大変だな。男尊女卑が強いらしいし、また年功序列的上下関係も強いっていうでしょう。だから、コンパでもなんでも知りあったら最初に年齢を聞くんだそうです。それで、敬語を使う側使われる側が決定する。こういう話聞くと、ちょっとしんどいなあって思います。
でもこれらもひとつの側面でしかないのでしょう。確かに上記のような事例から、韓国社会の底に流れる思想や価値観を感じ取ることはできますが、けれどさすがにそれがすべてではないはずです。過去に仲良くしてくれた韓国からの留学生には、ずいぶんと私の知らない韓国の側面を教えてもらった、そんな風に思っている私には、この漫画もまたこれまで知らずにいた韓国の側面を教えてくれるのではないかと、期待させてくれたのでした。
読んでみた感想 — 、これはすごくいいですね。ほほ笑ましさがたまりません。伝統ある女子寮に生活する、ルームメイトの三人娘がヒロインなのですが、寮生活を通じて経験するいろいろな出来事、それがすごく新鮮と感じられます。日本ではついぞ聞かないようなイベントがあるかと思えば、いずこも同じと思わせるようなこともあって、そのどちらもがフレッシュさにあふれています。少しずつ仲を深めていくジウォン、ミンジ、アンナ、そしてウンセも。時にはけんかもする、恋の話なんていうのもある、そうした彼女らの過ごす時間が静かにゆっくりと語られているって感じがなにより心地よいのでした。ドラマチックな盛り上げや、無理にテンションを上げようというような作為はまるでなく、淡々と、朴訥に、それこそ表紙に感じた印象よろしく、ものすごく素直な展開が繰り広げられます。それを一言であらわそうとすれば、ピュアというほかないという感じでした。まぶしく感じてしまうほどにピュア。これが私に直撃するのです。ああ、なんかいいじゃんか。楽しそうだ。かわいいなあ。もう、たまらん。女の子たちの日常を描く漫画はたくさんあるけれど、こうした感触はずいぶん久しぶりと思われて、素直で、ストレートで、シンプル。構えずありのままを伝えてくれる、そんな感触がなににも増して効果的であると思われました。
ただ危険なのは、これもまた漫画だから、表現されているものだから、事実をそのままは伝えないんですよね。私たちが日本の日常を描いた漫画を読んで、そういうことってあるあると共感する時、そこにデフォルメ、誇張、多少の非日常が含まれているっていう事実は織り込んで、いわば差し引いて楽しんでいるわけです。だからこの漫画にもそういう面はあるはず。それは諒解しておくべきなのでしょう。けど、そうでありながら、ある種韓国の女子高生の現実も伝えてくれてるのだろうなと思う。この感覚は、日本の漫画を読んで、日本の日常に憧れたり、興味ひかれたりしている海外の人たち、彼ら彼女らのそれと重なるのかも知れませんね。だから私は、『アンニョン!』に描かれる韓国、なんかいいなと思います。人間関係は、日本同様面倒くさそうだけどさ!
それはそれとして、猟奇的なお姉さんが出てきてわくわくですね。それに、今やありえないくらいにど直球な眼鏡、優等生、おたく娘の造形にくらくらします。というか、カワイイ(kawaii)は文化を越えるね(実際越えているそうです)。それを実感させてくれる漫画でありました。
- Tiv『アンニョン! — We are Peanuts』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2008年。
- 以下続刊
引用
- Tiv『アンニョン! — We are Peanuts』第1巻 (東京:双葉社,2008年),帯。
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